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コト飲み第6弾で訪れた和中華酒場「名足(なたり)」のカウンター風景

コト飲み第6弾|和中華酒場「名足(なたり)」に学ぶ、隠れ家感と”引き算”の店づくり

コト飲み第6弾で訪れた和中華酒場「名足(なたり)」のカウンター風景

「コト飲み」も、気づけば第6弾になりました。京都で店舗づくりをやっている私たちが、ただ飲みたいから飲んでるわけやなくて(半分はそうですが)、繁盛店の空気を現場で吸いにいく——そんな会です。



今回おじゃましたのは、和中華酒場「名足(なたり)」。うちのデザイナー陣と行ったら、これがもう、みんな職業病まるだしで店をジロジロ見てまして。出てきた感想が、そのまま店舗デザインの教科書みたいな内容やったので、今日はそれを共有させてください。

この記事でわかること

  • 「隠れ家感」は、じつは立地とアプローチの設計でつくれる
  • スケルトン天井×フローリングの”引き算”が効く理由
  • トイレとミラー1枚で、店を広く感じさせる設計テク
  • メニューは”少ないほうがいい”日もある、という話

名足(なたり)ってどんな店?

まず、名足がどんな店かをカンタンに。麩屋町通の高辻を下がったところにある「鍵屋小路会館」の2階に、2026年の春にオープンした和中華酒場です。焼鳥店や中華店で腕をみがいてきた店主さんが、和食をベースに中華やエスニックの要素をブレンドした、ここでしか食べられへん料理を出してくれます。

スペアリブを5時間かけて煮込んだバクテー、ナンプラーやライムで味変しながら食べる鯛の香味オイルがけ、そして居酒屋やのに名物が肉まん。営業は夕方16時から。なんとも言えん心地よさがあります。会館の中には他にも店が入っていて、はしご酒もできる。この「会館まるごと1軒の飲み屋街」みたいな構造が、名足の隠れ家感を、いっそう引き立ててるんですね。

「隠れ家感」は、立地とアプローチが8割


デザイナーから真っ先に出た言葉が、「アプローチのワクワクと隠れ家感」でした。ここ、めちゃくちゃ大事なポイントなんです。

名足は、大通りにドーンと看板を出してる店やありません。会館に入って、階段をトントンと上がって、2階のドアを開ける。この「たどり着くまでのひと手間」が、そのまま体験の味付けになってるんですね。人間、カンタンに入れる店より、ちょっと探して、ちょっと迷って、たどり着いた店のほうを「見つけた」と感じる。この”見つけた感”が、隠れ家感の正体です。

私はよく、店舗の動線をサッカーのビルドアップに例えます。ゴール前にいきなりロングボールを放り込むより、後ろから丁寧につないで、最後にスッと決めるほうが、観てる側の気持ちが乗る。店のアプローチも同じで、入口から席に着くまでの数歩を”つなぐ”設計ができてる店は、それだけでお客さんの期待値が上がってるんです。

もうひとつ、デザイナーが挙げてたのが「距離感」。カウンター越しの店主との距離、隣の客との距離、料理が出てくるタイミングの距離。この”間合い”がちょうどいいと、居心地って劇的に変わります。広ければいいってもんやない。近すぎず、遠すぎず。名足はこの間合いが上手でした。

💡 出店を考えてる方へ:立地の”弱点”は演出でひっくり返せる

「2階」「路地裏」「大通りから外れてる」——不動産の条件だけ見ると弱点に見える立地も、アプローチの設計しだいで「あえて隠れてる特別な店」に化けます。むしろ好条件の1階路面店より、家賃を抑えつつ個性を出せることも多い。物件選びは、坪単価だけやなくて”体験の伸びしろ”で見るのがオススメです。

スケルトン天井×フローリング、この”引き算”のバランス


次にみんなが唸ってたのが、店内の雰囲気のバランス。具体的には、天井はスケルトン(配管や躯体をむき出しにした仕上げ)、床はフローリング。この組み合わせが絶妙やった、と。

スケルトン天井って、放っておくと”無骨”や”工事中みたい”に転びやすいんです。でも、そこに温かみのあるフローリングを合わせると、無骨さがちょうどいいラフさに変わる。「抜け感」と「落ち着き」が同居するんですね。片方だけに寄せると、冷たすぎたり、逆に凡庸になったりする。この足し引きのバランス感覚が、店の空気を決めます。

私は現場でよく「引き算のデザイン」という言い方をします。あれもこれも足すんやなくて、素材の数をしぼって、そのぶん1つ1つの質感で語らせる。名足はまさにそれで、天井はそのまま見せる、床は木で温度を足す、余計な装飾はしない。この潔さが、あの居心地の良さを作ってました。予算をかければ良い店になる、わけやないんです。何を”やらへんか”を決められる店が、強い。

トイレが教えてくれた「余白」と「ミラー1枚」の設計術

ここ、私がいちばん「さすが、うちのデザイナー」と思った視点です。全員が口をそろえて、「トイレが良かった」と言ってました。飲み会の感想でトイレを絶賛する集団、なかなかおらんでしょう。でも、これが店づくりの本質を突いてる。

ポイントは2つ。ひとつは、店内の席数に対して、トイレにゆとりをとってあったこと。せまい店ほど、トイレは最小限に削られがちです。でも、お客さんが1人になれる唯一の空間がトイレ。ここに”ゆとり”があると、店全体の印象までグッと上質になる。面積の配分って、席をどれだけ詰めるかだけやなくて、「どこにゆとりを残すか」で品が決まるんです。

もうひとつが、トイレのドアに貼られたミラー。これ、たった1枚の鏡で空間の奥行きが倍に見える、王道やけど効くテクニックです。鏡は光と視線を反射して、実際の面積以上の広がりを錯覚させる。「店内が広く感じた」という感想は、この仕掛けの効果もかなり大きいはずです。

坪数はカンタンには増やせません。でも、体感の広さは、鏡・照明・視線の抜けで作れる。限られた面積で勝負する飲食店にとって、これはめちゃくちゃ再現性の高い武器です。うちが設計に入るときも、必ずこの”体感面積”を意識します。

💡 せまい店を広く見せる、3つの定番テク

  • ミラー:視線の抜ける面に鏡を貼り、奥行きを2倍に錯覚させる
  • ゆとりの配分:トイレや通路に”余白”を残し、詰め込み感を消す
  • 視線の逃げ場:天井を抜く・高い位置に窓や照明を置き、視線を上へ逃がす

メニューは”少ないほうがいい”日もある


面白かったのが、「今回だけはメニュー数が少なくて良かった」という感想。ふだんは「選択肢は多いほうが親切」と思われがちですが、じつは逆のことも多いんです。

人間は、選択肢が多すぎると決められへんくなる。これは「選択のパラドックス」と呼ばれる話で、メニューが50品ある店より、「今日はコレとコレ」と絞ってある店のほうが、満足度が高くなることがある。作り手の「これを食べてほしい」という意志が伝わるからです。

しかも名足の場合、その少ない品ぞろえが、どれもひと工夫ある味付けで、他店にないレパートリーやった。バクテーにしろ香味オイルにしろ、「どこかで食べたことある味」やない。少ない=手抜き、やのうて、少ない=一皿ずつ本気、なんですね。デザイナーが「飯がうまい」「料理が美味しい」と連呼してたのが、その証拠です。

これ、店づくりのコンセプトそのものと直結します。何を出すかより、何を出さへんかを決める。品数を絞る勇気は、そのまま店の”らしさ”になる。開業の相談を受けるとき、私が「メニューは思い切って減らしましょう」と言うのは、こういう理由なんです。

結局、店の良さは「人」に宿る

ここまで空間の話ばっかりしてきましたが、最後に忘れたらあかんのが「感じの良い店員さん、店長」という感想。これ、じつは全部の土台です。

どれだけ内装が良くても、料理がウマくても、迎えてくれる人の空気が悪かったら、その店にはもう一度行きたいとは思わへん。逆に、多少ぎこちなくても、心地いい接客の店にはまた足が向く。空間と料理は”きっかけ”、人は”理由”なんです。

名足は、店主さんとの距離感がちょうどよくて、メニューに載ってへんお酒を相談したら「ほな、これ合いますよ」と出してくれる。この「対話が生まれる余白」こそが、隠れ家の醍醐味やと思います。私たちは図面や素材で”箱”はつくれますけど、そこに命を吹き込むのは、いつも現場に立つ人。だからこそ、店づくりはハコで終わりやなくて、そこから始まるんやと、あらためて教えてもらいました。

まとめ:名足が教えてくれた、5つの店づくりのヒント

第6弾のコト飲み、名足で得た学びを整理しておきます。

  • ①アプローチが隠れ家感を作る——たどり着くひと手間が、体験の味付けになる
  • ②引き算のバランス——スケルトン×木材、素材をしぼって質感で語らせる
  • ③体感面積の設計——ミラー1枚とトイレのゆとりで、店は広く上質に見える
  • ④メニューを絞る勇気——少ない一皿ずつに本気を込めると”らしさ”になる
  • ⑤最後は人——空間と料理はきっかけ、また来たい理由は接客に宿る

名足のように、限られた条件のなかで個性を出しきってる店は、私たちにとって最高の教材です。「立地が2階やから」「坪数がせまいから」とあきらめる前に、その条件を武器に変える設計が必ずあります。コトスタイルは、物件探しから設計・施工、そして開業後の運営まで、京都・関西で店づくりに伴走しています。「こんな店をやりたい」という思いがあれば、まずは気軽に話しにきてください。

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なお、飲食店の開業にともなう営業許可・許認可については、京都府の保健所(京都府ホームページ)でもご確認いただけます。