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- コト飲み第3弾|先斗町「EL BODEGON」で学んだ出店者のリアルと設計者の役割


「あの時、コトスタイルさんに出会っていればよかった」
先斗町の路地裏で、アルゼンチンワインを傾けながら聞いたその一言が、今もずっと耳から離れません。
嬉しかった。本当に嬉しかった。でも、それ以上に悔しかった。設計や施工のノウハウがあっても、本当に困っている人のところに届いていなかった。これは、我々の敗北です。今日はその話も含めて、「コト飲み」第3弾のレポートをお届けします。
「コト飲み」とは何か|設計者が街に出続ける理由
まず、知らない方のために「コト飲み」について少し説明させてください。月に一度、コトスタイルのメンバーで京都の繁盛店を訪れる社内の飲み会です。ただし、忘年会や打ち上げとは全然違います。目的は「食べること」じゃなくて、「現場で考えること」です。
飲食店出店の本質って、単体の店を設計することじゃないと私は思っています。「街の中に、どの文脈で自分の店を配置するか」という構造の問題なんです。どれだけ精度の高い図面を描いても、その図面が置かれる地盤が不明確だったら、建物の強度は保証できひん。繁盛店の現場に自分の身体を置いて、図面の外にある構造を確かめる。それが「コト飲み」を始めた一番シンプルな理由です。
第一弾では、四条通から路地裏への「意図的な距離」が生む熱量について書きました。今回の第二弾も、その問いの続きです。
なぜ「EL BODEGON」を選んだのか|個人の熱量と、極端な立地の設計

今回訪れたのは、木屋町・先斗町エリアにある「EL BODEGON(エルボデゴン)」。2025年9月にオープンしたばかりの、本場アルゼンチン牛のステーキと南米料理が楽しめるお店です。
このお店を選んだ理由は二つあります。
一つは、個人でやっている熱量がお店から伝わってきたからです。QRコード注文で効率化された大型資本の店も素晴らしい。でも、我々が設計者として本当に向き合いたいのは、「どうしてもこの空間で、この料理を届けたい」という出店者個人の熱意なんですよね。大衆食堂のような居心地の良さと、手作りにこだわる家庭的な温かさ。外から見ただけで、その匂いがプンプンしていました。
もう一つは、その極端な「立地の設計」です。阪急京都河原町駅や京阪祇園四条駅から徒歩2分という好アクセスでありながら、先斗町のさらに細い路地を入った奥の奥にある。路地の入り口にある小さな看板を見落としたら、まず辿り着けない。
前回の「魚々鶏夜」でも書きましたが、四条通から一本入り、さらに路地の奥へ進むこの数十メートルの距離が、顧客の意識を切り替える重要なアプローチとして機能しています。偶然の来店を排除し、完全な「目的来店」を設計する。この立地の強度がお店にどんな空気をもたらしているのか。それを自分の目で確かめたかった。
平日満席の路地裏|異国情緒と、オーナーの「身体性」が生む熱狂

実際に平日の夜に路地を抜け、扉を開けた瞬間に、その立地戦略が正しかったことを身体で理解しました。
照明を少し落とした落ち着いた京町家の空間。70年代を思わせるレトロでお洒落な雰囲気。でも、そこにある空気の密度は、静寂とは程遠いものでした。1階のカウンターもテーブル席も、壁にアルゼンチンの写真が飾られた2階のテーブル席も、平日にも関わらず満席。店内に満ちているのは、香ばしく焼かれた肉の匂いと、多言語が飛び交う圧倒的な活気です。
このお店は上海の店舗に続く日本での出店で、アルゼンチン牛の炭火焼きステーキやセビチェ、エンパナダスを提供しています。京都でアルゼンチン牛を味わえるお店は非常に珍しい存在で、本場の味を求めて国境を越えた人々が集結していました。
京町家という日本の伝統的な文脈の中で、ワイングラスを傾けながら分厚いステーキや牛カツ「ミラネッサ」を頬張る。このギャップ、この多層性こそが、今の京都の飲食店の最も面白い現象のひとつだと思っています。
繁盛店の「重心」はどこにあるか
そして、この熱狂の空間の中心にいたのが、オーナー自身でした。満席の店内で、誰よりも汗を流し、お客様とコミュニケーションを取りながら最前線に立っている。
飲食店の空間には必ず重心が必要です。このお店では、オーナー自身の身体性と熱量が空間全体の重心になっていて、それが顧客の体験価値を何倍にも引き上げている。入店して数分で、完全に圧倒されました。
設計者として、これは非常に重要な観察です。どれだけ美しい空間を作っても、その空間の重心がどこにあるかで、店の強度はまったく変わる。図面には描けない、この「重心の設計」こそが、繁盛店と普通の店を分ける本質的な差のひとつだと改めて感じました。
出店者が直面する「リアルな壁」|設計者とのコミュニケーションズレが招く致命的ダメージ

美味しいアルゼンチンワインと、表面は香ばしく中はみずみずしい肉汁あふれるアルゼンチンビーフステーキをいただきながら、オーナーさんにお話を伺うことができました。そこで聞けたのは、華やかなオープンに至るまでの、泥臭くて生々しい「出店者のリアルな壁」の話でした。
この京都での出店にあたり、当初依頼していたデザイナーとの間で大きなトラブルがあったそうです。スケジュールが分からない。図面と現場のイメージが合わない。予算のコントロールが効かない。
飲食店出店において、設計者と出店者のコミュニケーションのズレは致命的なダメージになり得ます。空間はただのお洒落な箱ではなく、スタッフの動線であり、顧客の視線の制御であり、利益を生み出すための構造そのものだからです。意匠(デザイン)ばかりが先行し、運営の合理性や出店者の哲学が置き去りにされると、お店は機能しなくなる。
オーナーさんはそのトラブルで出店計画そのものが危ぶまれるほどの状況になりましたが、その後偶然知り合った方とのご縁で、無事にこの素晴らしいお店をオープンすることができた、と。
飲食店出店で「設計者選び」が重要な理由
この話を聞きながら、設計者として背筋が伸びる思いがしました。出店者がどんな時に不安を感じ、どんな壁に直面するのか。そのギリギリの攻防のリアルは、現場に来て直接話を聞かなければ絶対に得られないものです。
飲食店の出店を考えている方に、ひとつお伝えしたいことがあります。設計者選びは、デザインポートフォリオだけで判断しないでください。その設計者が「運営の目線を持っているか」「出店者の哲学を空間に落とし込む対話ができるか」を確かめることが、後悔しない選択につながります。コトスタイルが物件探しから設計・施工までワンストップでやっている理由も、まさにここにあります。窓口がひとつであることで、意図のズレが生まれる余地を最小化できる。
「あの時、コトスタイルに出会っていれば」|知名度不足という痛恨の気づき
そして、私の胸にグサッと刺さったのが、オーナーさんの次の一言でした。
「店舗を出店する時に、コトスタイルさんのことを見つけられていなかったんです。あの時、一番苦しんでいた時に出会っていればよかった」
嬉しかった。本当に嬉しかった。でも、それ以上に猛烈に悔しかった。
京都で飲食店出店をサポートするプロフェッショナル集団として、設計から施工、開業相談までワンストップでやっているつもりやのに、本当に困っている人のところに私たちの存在が届いていなかった。どれだけ良い設計ができても、どれだけ出店者に寄り添うノウハウがあっても、知られていなければ存在しないのと同じです。
「出会っていればよかった」と言わせてしまったことは、我々のマーケティングと発信力の敗北です。これは、会議室でパソコンを眺めていても絶対に得られない気づきでした。現場に来て、直接オーナーの目を見て話を聞かなければ、この言葉の重さは理解できなかった。
私たちコトスタイルは、まだまだ知名度が足りない。もっと発信し、必要な人に必要なタイミングで届くように、知恵を絞り汗をかいていかなあかん。このブログもそのひとつです。
なぜ京都か|上海から先斗町へ、都市の「文脈」を読む戦略眼
話はさらに深まり、オーナーさんのバックグラウンドと今後の展望へと移っていきました。
オーナーさんは地元が兵庫県で、上海で「El Bodegon」を大成功させている。では、日本での出店を考えた時に、なぜ地元ではなくあえて京都を選んだのか。
その答えは、非常に戦略的でした。京都は単なる地方都市ではなく、世界中から多様な価値観を持つ人々が集まる国際的な結節点です。町家という「時間の層」を持ちながら、新しいもの、異質なものを寛容に受け入れ、独自のカルチャーとして昇華させる土壌がある。上海という巨大な国際都市で多国籍な顧客を相手に勝負してきたオーナーにとって、地元という安心感よりも、京都が持つ「世界への窓口」としての機能と化学反応の可能性に強く惹かれた。
実際、今日の店内の多国籍な熱狂を見れば、その選択が正しかったことは明らかです。
次の一手|一店舗の成功を「構造」として拡張する視座
さらに、京都での出店を足がかりにした次の展望についてもお聞きしました。満席状態に満足せず、すでに次の展開を見据えているその視座の高さ。単なる一店舗の成功にとどまらず、ブランドとしてどう構造を拡張していくのか。同じ都市の中で複数の点を結んで面を形成していく、という戦略的なお話は、ビジネスを構築していく立場の人間として、めちゃくちゃ刺激になる内容でした。
飲食店の出店は一点突破から始まりますが、長く続く店は必ず「次の構造」を考えている。この視点を持てるかどうかが、出店者として一段上の仕事をするための分岐点だと思っています。
現場でしか得られないもの|設計者が街に出続ける意味

気がつけば予定の時間を大幅に超えて、熱いお話を伺うことができました。店を出て、先斗町の細い路地を四条通に向かって歩きながら、改めて思いました。こういう現場でしか得られない体験は、やっぱり飲食店は良いな、と。
美味しい料理や空間の美しさだけじゃないんです。そこには、人生を懸けて勝負するオーナーの熱量があり、予期せぬ壁を乗り越える泥臭いドラマがあり、国籍を超えて人々が交わる奇跡のような瞬間がある。図面の上では決して表現しきれない、人と人がぶつかり合って生まれる強烈なエネルギーが、飲食店の現場には確実に存在しています。
今回のコト飲みで得た気づきを三つ、整理して締めくくります。
- 出店者の「リアルな壁」は、現場に行かないと絶対にわからない——設計者は街に出続けなければならない
- 設計者と出店者のコミュニケーションズレは致命的——ワンストップで伴走できる体制が、出店者を守る
- コトスタイルの知名度はまだまだ足りない——必要な人に届く発信を、もっと続けていかなあかん
「現場には、自分の金で行け」。かつて教えられたその言葉の意味を、今また噛み締めています。京都で飲食店の出店を考えている方。設計者選びで悩んでいる方。あるいは、こういう会社で働いてみたいと思った方。いつでも、声をかけてください。
「コト飲み」は、まだまだ続きます。飲食店出店は図面から始まりますが、成功は図面の外で決まる。その外側にある構造を見続けるために、次はどんな空間で、どんな熱量に出会えるのか。街に出るのが、ますます楽しみになってきました。
飲食店・店舗出店のご相談はコトスタイルへ
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「まだ何も決まっていない」という段階でのご相談が一番多いです。まずはお気軽にどうぞ。
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ステーキ美味かった!





