「居抜きで借りたから、そのまま使えると思ってた。
でも、実際に現場を見たら、全部取らないといけないものがあった。」
開業の現場を担当していると、こういう声をよく聞きます。
居抜き物件の解体工事は「どこまでやるか」の判断が難しい。 全部壊せばお金がかかる。でも中途半端に残すと、あとで困ることも出てくる。
今回は、伏見駅の目の前にある小さな戸建テナントで始まった焼き鳥屋さんの開業工事を例に、 居抜き物件の解体工事における「判断の基準」と「費用の現実」をレポートします。
この現場を担当しているDesigner タナカです。 実際に手を動かしながら感じたこと、現場でしかわからないことを、できるだけそのままお伝えします。
伏見駅前の戸建テナント|この現場のこと
場所は京阪・近鉄の伏見駅のすぐ目の前。国道24号線沿いの小さな戸建テナントです。
前のお店がいた気配が残る居抜き物件。 厨房設備の一部はそのまま使えるものもあるし、逆に「これは絶対に変えなければいけない」という箇所もある。 居抜き物件ってだいたいそういう状態です。
新しく入るのは、小さな焼き鳥屋さん。 コンセプトは「大将の顔が見える、カウンターで焼き鳥を食べる店」です。
このコンセプトが、解体工事の範囲を決める上で大事な判断軸になりました。

居抜き物件の解体、「どこまでやるか」を決める考え方
居抜き物件を借りるとき、多くの方が「そのまま使えるから費用が抑えられる」と考えます。 それは半分正解で、半分は甘い見通しになりがちです。
前のお店の「コンセプト」と新しいお店の「コンセプト」が近いなら、そのまま活かせる部分は多い。 でも全然違うコンセプトなのに内装だけ流用すると、「なんか雰囲気がちぐはぐ」な店になります。
解体の判断基準は、大きく3つに整理できます。
① コンセプトに合わないものは撤去する
今回の焼き鳥屋さんのような「大将の顔が見えるカウンタースタイル」を目指すなら、 厨房と客席を完全に分断するガラス仕切りは邪魔になります。
どれだけ立派な設備でも、店の「体験」を邪魔するものは取り除く。 それが今回の解体判断の基本でした。
② 再利用できるものは極力活かす
厨房と客席のレイアウトは大きく変えない方向でした。 だから使える設備・配管・躯体は残して、変更が必要な部分だけ手を入れる。
「全部壊して新しく作る」のがかっこよく見えることもあります。 でも、再利用できるものを活かすのは、コストを抑えるだけじゃなく、 「この物件が持っている素の良さ」を引き出すことにもつながります。
③ 配管・設備は「変えるなら今」を徹底する
開業後に「やっぱり配管を変えたい」となったら、内装を全部剥がすことになります。 見えない部分の工事は、オープン前の今しかできません。
特に焼き鳥屋さんは換気が命です。 炭火や煙への対応、グリストラップの位置、排気ダクトの出口など、 設備配管は「絶対に妥協してはいけない部分」として今回も優先的に確認しました。
今回の解体工事で起きたこと
解体の一番の山場は、厨房と客席を仕切っていた大きな耐熱ガラスの撤去でした。
この耐熱ガラス、見た目より相当に重い。 簡単に動かせるようなものじゃないので、粉砕しながら少しずつ撤去していくことになりました。

バッキバキに割って、ガラスの破片を一つひとつ片付けていく。 なかなかの重労働です。
このガラスがなくなることで、厨房と客席が「つながる」。 焼き場の煙や香り、大将の所作がそのまま客席に届く空間になります。
解体工事って、何かを「壊す」作業のように見えますが、 私はいつも「空間を生まれ変わらせる最初の一歩」だと思っています。 古いものを取り除いて、新しいコンセプトが入れる余白を作る。そういうイメージです。

その他の細かい箇所も、一つひとつ確認しながら解体を進めました。 「壊すかどうか迷う」ものは、施主さんと写真を共有しながら現場で判断。 後から「あれ、なんで取ったの?」にならないよう、コミュニケーションを密にとるようにしています。
店舗の解体工事費用、どのくらいかかるの?
開業を考えている方から「解体工事ってどのくらいかかりますか?」とよく聞かれます。 正直に言うと、物件によって全然違います。
ただ、「目安を知りたい」という気持ちはよくわかるので、 私が担当してきた現場感覚でお伝えします。
※上記はあくまで目安です。物件の状況・築年数・前テナントの残置物等によって大きく異なります。
見積もりで「解体工事費」として一行にまとめられていることが多いですが、 内訳は必ず確認してください。 特に産業廃棄物の処分費は、後から追加になりやすい費目です。
今回の伏見の現場では、耐熱ガラスの撤去と廃棄処分だけで想定より少し費用がかかりました。 「重いものを粉砕して搬出する」という作業は、手間が普通の撤去と全然違うからです。
現場からのひとこと
解体費用を安く見積もって開業予算がオーバーするケースはよくあります。 居抜き物件の内見時に「どこまで解体が必要か」を事前にプロと一緒に確認しておくことが、 予算ブレを防ぐいちばんの方法です。
焼き鳥屋の内装工事、解体後に大事なこと
解体工事が終わったら、いよいよ本工事に入ります。 焼き鳥屋さんの場合、内装で特に大事なポイントが3つあります。
① 換気・排気設備は最優先
焼き鳥屋でいちばん難しいのは煙の処理です。 換気が不十分だと店内が煙臭くなるだけでなく、近隣への煙の拡散で苦情になることもある。
排気ダクトの位置と出口の向き、排気量の計算は設備屋さんとしっかり詰めました。 今回の設備配管工事は解体後すぐに着手しています。
② カウンターの高さと素材
カウンター式の焼き鳥屋で雰囲気を決めるのは、カウンターの高さと素材です。
一般的な小料理屋やカウンターバーは天板高さ850〜900mm程度。 焼き場が見えることを想定すると、少し高めの設定が焼き場の熱から客席を守りつつ、 手元の作業がちゃんと見える高さになります。
素材は無垢材が理想です。 お酒を置いたときの音、酔ってもたれかかったときの感触。 そういう細かい体験のひとつひとつが、「また来たい」につながると私は思っています。
③ 照明は「人が主役」になるように
焼き鳥屋の照明で失敗しやすいのは「明るすぎること」です。
明るい照明は清潔感はあるけれど、「長居したい雰囲気」にはなりにくい。 少し落とした間接照明で、焼き場の炭火が映えるような光環境を作るのが理想です。
演色性の高い電球色の照明を使うと、料理も人の肌もおいしく見えます。 青白い蛍光灯は、焼き鳥の色が死ぬのでNGです。
居抜き物件で開業するときに見落としがちな3つのこと
最後に、居抜き物件で開業を考えている方に向けて、 現場でよく見る「見落とし」をまとめます。
見落とし① 原状回復の範囲が契約書に明記されていない
居抜きで借りる場合、退去時の「原状回復」の範囲が問題になることがあります。 「居抜きで借りたのに、スケルトンで返せと言われた」というトラブルは実際にあります。
契約前に「入居時の状態のまま返せばいいのか、スケルトン返しなのか」を必ず確認してください。 工事範囲が変わるので、費用計画にも直接影響します。
見落とし② 前テナントの残置物の処分費
居抜き物件には前のお店の設備や什器が残っていることがあります。 これを使わない場合は産業廃棄物として処分しなければならず、思わぬ費用になることがあります。
物件を見学する段階で「この残置物は誰が処分費を負担するのか」を交渉しておくことが大事です。
見落とし③ 「安い居抜き」が本当に安いとは限らない
居抜き物件は初期費用が抑えられると思いがちです。 でも、前のコンセプトと全然違う業態でそのまま使うと、 工事費がスケルトンより高くなるケースも珍しくありません。
「どこまで解体して、どこを活かすか」の判断が、居抜き物件の開業費用を大きく左右します。 物件を見る目とコンセプトの整理、この2つを並行させることが重要です。
次の工程へ|設備配管工事がはじまります
解体工事が無事に終わりました。 耐熱ガラスがなくなって、空間がひと回り広くなった感じがします。
次はいよいよ厨房の設備配管工事です。 換気、給排水、ガス。焼き鳥屋さんの心臓部を作っていきます。
続きのレポートも随時更新していきます。
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