

先日、休日に器めぐりをしていて、ふと気づいたことがあります。「このお店、なんか好きやな」と思う瞬間って、商品そのものよりも先に、空間が語りかけてくるとき。そういうお店は、必ずと言っていいほど、オーナーの「思想」がちゃんと空間に宿っています。
今回紹介する「虎の目洋菓子店」さんは、まさにそういうお店でした。
「京都でケーキ屋を開業したい」
「フランスのパティスリーみたいなアンティーク調の内装に憧れてる、でも何から始めればいいかわからない」
「予算も坪数も限られている中で、どうやって世界観を作ればいいの?」
これからお店を持ちたいと考えている方に、まず結論からお伝えします。世界観は、予算ではなく「発想の順番」で決まります。
本記事では、2025年3月に京都・新大宮商店街にオープンしたフランス焼菓子店「虎の目洋菓子店」さんの事例を解剖します。約11坪という決して広くない空間の中で、「町家×フランスのパティスリー」という唯一無二の世界観がどう生まれたのか。コトスタイルが設計施工を担当した立場から、オーナー・西村様の開業ストーリーとともにお話しします。
虎の目洋菓子店のデザインコンセプトとは?アンティーク内装を選んだ理由

お店に一歩入った瞬間、「あ、これは好きな空間やな」と私は思いました。それはなぜか、すぐにわかりました。素材感、光、色。それぞれがちゃんとお互いに会話していたからです。
京町家とフランスのパティスリーの融合

「虎の目洋菓子店」が構えるのは、京都市北区の新大宮商店街。ファミリー層が多く行き交う、どこか懐かしくて落ち着く通りです。物件はもともと、かつての家主が食堂を営んでいた京町家でした。

オーナーの西村様は、「外観はできるだけ建物が持つ雰囲気を大切にしたい」とおっしゃっていました。この町家が持つ時間の積み重ね、そのままにしておきたいという感覚、私にはよくわかります。街を歩いていて古い建物や空間に出会ったとき、「残してほしかったな」と思うことが正直多いので。
そこに西村様が長年培ってきたフランス菓子のエッセンスを掛け合わせることで、「京町家の趣」と「フランスのパティスリー」が融合した、唯一無二の洗練された空間が生まれました。このコンセプトが最初に決まっていたからこそ、その後のあらゆる判断に迷いがなかったと思っています。
ブランドカラー「ブルーグレー」が作り出す上品な空間

店内でいちばん最初に目に飛び込んでくるのが、壁一面の「ブルーグレー」です。
グレーって、選び方を間違えると空間全体が沈んでしまう。経験則でいうと、グレーを使いこなせているお店は、かなりデザインの目が利いています。「虎の目洋菓子店」のこのブルーグレーは、ちょうどいい明るさを保ちながら、上品な落ち着きも持っている。そのバランスが絶妙で、私は「いいねー」と思わず言ってしまいました。

このカラーはブランドカラーとして、エントランスの扉やお菓子のパッケージにも一貫して使用されています。色でブランドをまとめる、これができているお店は強い。焼菓子の温かみと、エスプリの効いた特別感が同時に存在できているのは、このカラーリングの力が大きいと思います。
アンティーク内装を演出するための具体的な工夫とは?
「高級感」と「コスト」は、必ずしもトレードオフじゃない。「虎の目洋菓子店」の内装は、それを証明しています。
店の顔となる「特製タイルカウンター」の秘密

入ってすぐ目を引くのが、重厚感たっぷりの特製カウンターです。「どんな高価な素材を使ったんだろう」と思いきや、実はそうじゃない。「ユニット家具の上に個性豊かなタイルを貼る」という施工の工夫から生まれたものです。
最初、西村様は「木製かモルタルの台にしたい」とお考えでした。でも「費用は抑えたい」というご要望もあった。私たちコトスタイルが提案したのが、ユニット家具をベースにして表面にタイルをあしらうプランです。
結果として、コスト以上の存在感が生まれた。これは発想の順番の話で、「いくら使えるか」ではなく「どう見せたいか」から逆算したからこそ辿り着けたアイデアです。カウンターの裏にはユニット家具の収納機能もそのまま活きていて、実用性も担保されています。めっちゃいいやん、と自分たちの仕事ながら思いました。
アンティークの印象を作る要素
- エイジング塗装
- 素材の質感
- 照明の色温度
- 床材の表情
空間のアクセントとなる照明とディスプレイ棚

アンティークな世界観を完成させるのに、光の使い方は本当に大事です。
タイルカウンターの上に設置した照明は、少しボリューム感のある存在感のある一品。実はこれ、オープン前日にギリギリで選んで取り付けたこだわりの照明です。この照明の光がタイルの程よいツヤに当たって反射することで、やわらかく空間全体に光が拡散される。その結果として、フィナンシェやバスクチーズケーキなど、主役であるお菓子の魅力がより際立つ仕組みになっています。
ディスプレイ棚も同様で、壁と同じブルーグレーで統一感を出しながら、あえてマットではなく「表情のある質感」の素材を使っています。こういう細部の違和感のなさが、空間全体に深みを与えてくれる。不規則なものや素材感のミスマッチは、私はどうしても気になってしまうので。
11坪の限られた空間で、販売と製造をどう両立させたか|レイアウト設計の具体例
11坪というのは、正直そんなに広くない。でも、設計の仕方次第でお客様の体験はまったく変わります。
売場と厨房を分ける「壁の移設」
もともとの物件には、現在のカウンター位置よりも手前に壁がありました。そのままだと売場が非常に狭くなってしまう。そこでコトスタイルは、既存の壁を取っ払い、空間の奥へと新たな壁を設置し直すという間取り変更を行いました。
新しい壁の後ろを厨房スペースとして構築し、もともとあった扉は移設して再利用。コスト削減と空間の有効活用と町家の面影を残すこと、この三つを同時に達成できた場面でした。「これ、使えるやん」という瞬間の積み重ねが、良い施工になると私は思っています。
建物の制約を逆手に取った「柱の活用」
リノベーションをしていると、必ず出てくるのが「どうしても抜けない柱」の問題です。構造上の理由で撤去できない、でも邪魔になる、というあの柱。「虎の目洋菓子店」でも同じ状況に直面しました。
ここで設計チームが選んだのは、隠すのではなく「カウンターに突き刺さるように埋め込む」という逆転の発想です。結果として、その柱は空間の障害物ではなく、タイルカウンターと一体化したオリジナリティある意匠の一部になりました。制約を弱点にしないで、強みに変える。こういう発想の転換が、やっぱり設計の面白さだと思います。
設計上のポイント
- ショーケースの配置
- カウンター位置
- バックヤード動線
視認性を高めるエントランスの仕掛け
物件の立地は、隣の建物より少し奥まった場所。「外から見て、お店があるとわかりにくいかも」という懸念がありました。
この課題に対して、もともと格子戸だったエントランスを「全面ガラスの引き戸」に変更しました。外からでもブルーグレーの店内とお菓子が見えるようにしたことで、通行人の目線を自然に引き込む仕掛けになっています。

さらに、頭上にあった既存の丸いランプ。これを撤去せず、西村様の息子さん(デザイン関係のお仕事をされている)がデザインした「虎の目」のロゴをあしらい、シンボルとして蘇らせました。これ、聞いたとき「いいねー」ってなりました。家族の仕事がお店に宿る、そういうエピソードって空間に温度を加えると思うので。
開業までに何をどう決めたか|オーナーとの設計・施工プロセス
ここからは、西村様へのインタビューをもとに、開業に至るまでの話をご紹介します。
50歳の節目での決断。コトスタイルとの出会い

フランス菓子をメインに、洋菓子店や専門学校の講師、国内外のホテルやレストランの運営会社で20年近く勤務されてきた西村様。「ずっと自分のお店を持ちたかった」という思いは長年持ちながらも、充実した環境の中でなかなか踏み出せずにいたそうです。
でも、50歳という節目に「開業するなら今だ」と決意し、2024年の夏に退職して準備をスタートされた。この「乾坤一擲」の感覚、私はとても共感します。失敗したらどうしようではなく、やるなら今だという気持ちが固まったとき、人は動けるんだと思うので。
物件探しでインターネット検索から合計10軒ほどを見学する中で、コトスタイルの担当者(成瀬)と出会います。最終的にコトスタイルをパートナーに選んでいただいた決め手は「レスポンスの早さと誠実な提案力」だったとのこと。
実は現在の物件に出会う前、一度は先約が入ってしまい諦めかけたというドラマがありました。しかしその後、奇跡的にキャンセルが出て契約に至った。「これはご縁だ」と西村様はおっしゃっていました。やっぱり、そういう縁の話って、お店の空気に出ると思っています。
具体的なイメージがない状態からのスタート
内装の打ち合わせが始まった当初、「焼菓子だけにするか、生菓子も扱うか」すら決まっていなかったと西村様はおっしゃっていました。
「営業していくなかでやりたいことは変化していく。そのときの気持ちを大切にカスタマイズしていきたい」という考えを尊重して、コトスタイルは「最低限オープンできる状態」をベースラインに設定。そこから「お店の顔になるカウンターを置いてみてはどうか」といった具体的な提案を重ねながら、ゼロから「虎の目洋菓子店」の輪郭を一緒に作っていきました。
具体的なイメージが最初から固まっていなくても、全然問題ありません。むしろ、対話の中で想いを引き出して形にしていくのが私たちの仕事だと思っているので。
物件探しから施工までの一貫サポートの強み
西村様が最も助かったと語るのが、「物件選びから設計、施工管理、予算管理までを一貫して任せられるワンストップ体制」でした。
初めての開業では、不動産会社、デザイン会社、施工業者それぞれとやり取りするだけで、膨大な時間と精神的エネルギーが必要です。コトスタイルに任せることでその負担をぐっと減らせたうえに、「費用を予算内に収めながら、アイデアで期待を超える提案をしてくれた」と評価していただきました。
オープン後、近隣の常連客や遠方からのお客様で賑わう店内。「昔ここは主人の実家で食堂だったのよ」と声をかけてくれた方もいたそうで、町家の価値を受け継いだことの意義を改めて実感されているといいます。その話を聞いたとき、私は「やっぱりそうやな」と思いました。空間には記憶が宿るし、それを大切にしたお店には、大切にしたいと思ってくれる人が集まってくる。
まとめ:京都でケーキ屋を開業するために大切なこと
「虎の目洋菓子店」さんの事例から、成功するお店づくりに共通するヒントが見えてきます。
まず、物件の歴史や特性を活かしてブランドコンセプトと融合させること。次に、予算の使い方にメリハリをつけて、見せ場にアイデアを集中させること。そして限られた坪数でも、壁の移設や制約の逆活用で無駄のない空間をつくること。最後に、想いを引き出して物件探しから施工まで一緒に走ってくれるパートナーを見つけること。
「お菓子を食べたいなと思ったときに来店できる気軽さと、ここでしか味わえないエスプリがある特別感を兼ね備えた店であり続けたい」
と西村様はおっしゃっていました。その言葉が、お店の空気にちゃんと宿っているのが、行けばわかります。
京都でケーキ屋・洋菓子店の開業をお考えの皆様へ
コトスタイルでは、「虎の目洋菓子店」さんのように、物件探しからデザイン設計、施工までをワンストップでサポートしています。具体的なイメージがまだ固まっていなくても、予算に不安があっても、全然大丈夫です。まずは一度、気軽にご相談ください。あなたの想いを形にするための話を、一緒にしましょう。
■ 店舗情報
虎の目洋菓子店
住所:京都市北区紫竹西高縄町1
Instagram:https://www.instagram.com/toranome_patisserie/
食べログ:https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260503/26042700/
業種:洋菓子店 / 広さ:約36.7㎡(11.2坪)
・オーナー様のインタビューフルバージョンはこちらから
インタビュー前半 インタビュー後半
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