少し前になるんですが、7月に「りょうりや○(えん)」様へお食事にお伺いしました。
私が担当デザイナーとして内装設計・施工をお手伝いさせていただいたお店で、二条城の近くにある日本料理店です。 自分が設計した空間に、今度は「お客さん」として座る。 なんか、不思議な感覚でしたね。緊張もしました。
設計しているときは「この空間でお客さんがどう感じるか」を想像しながら作るわけですが、 実際に自分が座って体験してみると、図面では気づけなかったこともあって。
今回は、担当した立場から振り返りながら、「高級店なのに、なぜか肩の力が抜ける空間」ってどういうことか、 少し整理してみたいと思います。 Designer ムラカミです。
外観の「重厚感」と、店内の「抜け感」のギャップ
りょうりや○様の外観は、町家をフルリノベーションした黒い鎧張り(よろいばり)です。 一見すると、かなりシックで重厚な雰囲気。 通りかかった人には「ちゃんとした感じの店やな」と映るはずです。

でも、大きな円相が描かれた暖簾をくぐって中に入ると、 白木のカウンターがゆったりと広がっていて、空間全体に「抜け感」が出ています。
この「外→中」のギャップは、設計のときに意識していたことのひとつでした。 外でちょっと構えた分、中に入ったときの解放感が大きくなる。 お客さんの心のスイッチを切り替える仕掛けとして、あえてこのコントラストを作りました。
スポーツで言うと、長い廊下を歩いてコートに出た瞬間にパッと視界が開けるあの感じに近い。 少し大げさかもしれないですが、空間ってそういうところが意外と効いてたりするんです。
実際に自分が座って体験してみて、「あ、この切り替わりはちゃんと機能してるな」と感じられたのは、 担当者としてはうれしかったですね。
空間に仕込んだ「ストーリー」が、会話を生む
この空間で設計の段階から大切にしたのが、素材に「ストーリー」を込めることでした。
松の一枚板のカウンター。 床材は竹のフローリング。 箸置きは梅の木。
松竹梅を空間全体にさりげなく散りばめた意匠です。 主張しすぎず、でも気づいた人には「あ、そういうことか」と伝わるように。
お食事しながらオーナーの渡辺様と話していると、 お客様がこの仕掛けに気づいた瞬間の話をしてくれて。 「あれから自然に会話が広がるんですよ」とおっしゃっていました。 それを聞いて、こういう「仕込んだ遊び心」がちゃんと機能してるんだな、とわかってよかったです。
高い素材を使うことそのものより、そこに「意味」が込められているかどうか。 それがお客さんとお店の距離をぐっと縮めるコミュニケーションになる。 設計するときに信じていたことが、実際の場でも動いていました。
なんでもよくはない、ってことだと思います。 素材も意匠も、なんとなくではなく「なぜそれか」が宿っているお店は、 やっぱり強いです。
いただいたコースのこと
空間の話ばかりしていましたが、お料理もすごかったんです。 せっかくなので少しご紹介させてください。
まずは「とうもろこしの玉〆」。


とうもろこしの茶碗蒸しで、七夕の季節にちなんで梶の葉が蓋になっていました。 葉をめくった瞬間にふわっと香りが立ち上がって、それだけでちょっと感動しましたね。 とうもろこしの甘みと実山椒のピリッとしたアクセント、すごく好みでした。
続いて「賀茂茄子のお椀物」。

「うなぎの白焼き」も印象的でした。

「おそうめん」は小豆島から仕入れているそうで、コシがしっかりしていて食べ応えがあって。

そして「自家製ぬか漬け」。 炊き立てのご飯のお供として出していただいたんですが、これがもう止まらなくて。 きゅうりとなすの色がきれいで、食べる前からテンション上がりました。

オーナー様ご自身が全国の生産地に足を運んで厳選された食材ばかりで、 野菜は驚くほど甘く、魚もぴかぴかに新鮮でした。

カウンター越しの「ライブ感」が、最高のエンターテインメント
りょうりや○様はカウンター席で、厨房との間に高い仕切りを設けていません。 これは設計の段階から、オーナーの渡辺様と「調理の過程を見せる空間にしたい」という話をしていて、 意図的にそうしました。
実際に座ってみると、食材が焼ける音、出汁の香り、盛り付けの所作まで、 すべてが直接伝わってきて。 「ああ、これはいい体験だな」と、改めて思いました。
美味しいものを食べるだけなら、今の時代お取り寄せでもできます。 でもお店に行くって、そういうことじゃないんですよね。 目の前で繰り広げられる「調理という名のライブ」を体感しに行く、みたいなところがある。
NBAを現地で観た時の話をちょっとしていいですか。 映像で何百回も見てきたプレーが、目の前で起きた瞬間の感動って、全然違うんです。 音、空気、熱量、すべてがリアルだった。
カウンター越しに見るオーナー様の所作も、ちょっとそれに近い感覚でした。 「料理ってこんな過程を経て出てくるんだ」というリアルが、 ただ皿を受け取るより何倍も記憶に残る体験になっていた。 設計時に目指していたことが、ちゃんと届いていると感じられた瞬間でした。
料理と空間が「同じ方向」を向いているお店の強さ
食事を終えて外に出たとき、ふと思ったことがあって。 「お腹も心も、ちゃんと満たされたな」って。
これって、料理のレベルと空間の説得力が、同じ方向を向いていたからだと思います。
どんなに素晴らしい料理でも、それを食べる場所がふさわしくなければ、感動は半分になる。 逆に、内装だけ立派で料理がついてこなければ、お客さんはがっかりする。
りょうりや○様の設計では、渡辺様の「素材の持ち味を実直に引き出す」という料理哲学を、 そのまま空間に翻訳することを意識しました。 本物の無垢材を使い、飾りすぎない。余白を残す。 オーナーの想いと空間が同じ方向を向いていることが、お店づくりの大前提だと思っています。
デザインや空間に惹かれる瞬間って、完成物そのものよりも 「そこに注がれた人のこだわり」を感じ取れた時だと、ずっと思っているんです。 りょうりや○様は、設計した本人が言うのもなんですが、そういうお店になっていると感じました。
お店をつくるとき、「どんな気持ちで帰ってほしいか」から考える
開業を考えている方と話していると、「どんな壁紙にしよう」「おしゃれな椅子を置きたい」と、 見た目のことから入ることが多いです。 それも大事なんですけど、本当に考えてほしいのは、 「お客さんにどんな気持ちで帰ってほしいか」だと思っています。
「今日はいい時間だったな」 そう思いながら帰ってもらえる店にするには、料理だけでも内装だけでも足りないんです。 その両輪が揃って、初めてそういう体験が生まれる。
りょうりや○様のコースをいただきながら、そのことを改めて感じました。
なんでもよくはない、ってことだと思います。 どんな素材を選ぶか、どんな間取りにするか、どんな明るさにするか。 一つひとつに「なぜそうしたか」が宿っているお店は、やっぱり強い。
りょうりや○様、本当に忘れられない時間をありがとうございました。 まだ行かれていない方は、ぜひ一度予約してみてください。
instagram:@kyoto202404

「自分の想いを空間に落とし込みたい」という方へ
料理のコンセプトと空間デザインを同じ方向に揃える、そういうお店づくりを一緒に考えます。
物件探しからデザイン・施工まで、一箇所に相談すればすべてが揃うコトスタイルへ。








