

テナント賃料相場って、エリアによって本当に全然ちがう。川沿いで眺めがいい店と、一本入った路地の店とでは、坪単価が倍以上開くこともある。でも、どちらが「正解」かはお店の業態次第なんですよね。
物件を探しているお客様から、こんな言葉をよく聞きます。「提示された賃料が相場として適正なのか、自分では判断できなくて」と。その不安、すごくわかります。相場を知らないまま契約すると、あとで「あの物件の方が良かった」と後悔することになりやすい。
私は一級建築士・宅建士として、コトスタイルで京都・関西の店舗出店・空き家活用支援に関わってきた立場から、これまで300件以上の開業支援に携わってきました。テナントの賃料相場を「調べる方法」から「交渉に使う方法」まで、現場の経験をもとにお伝えします。
📋 この記事でわかること
- テナント賃料相場の正しい調べ方(ポータル・仲介・現地調査)
- 賃料相場と「提示賃料」は別物という話
- 京都・関西エリア別テナント賃料相場の目安(2026年版)
- 賃料交渉で使える3つの根拠の出し方
- フリーレント・段階賃料など交渉の選択肢
- 相場より高い物件を選ぶべきケース・選んではいけないケース
目次
テナント賃料相場とは何か——「相場」と「提示賃料」は別物
提示賃料は「オーナーの希望額」にすぎない
物件情報に書いてある「賃料○万円」は、オーナー(家主)が「これで貸したい」と思っている希望額です。相場ではありません。
不動産の世界では、これを「提示賃料」と呼びます。提示賃料は、オーナーの期待値・物件への思い入れ・過去の賃料実績などが反映されていて、必ずしも市場の実勢と一致しているわけではありません。
賃料相場とは、そのエリアで実際に成約している物件の賃料水準のことです。提示賃料が相場より高いことも、低いことも、両方あります。
「相場を知らない」まま契約すると、相場より高い賃料を払い続ける可能性があります。賃料相場を把握することが、物件選びの最初の一歩です。
「賃料相場」と「家賃相場」の違いは?
検索するとき「テナント賃料相場」と「テナント家賃相場」という2つのキーワードがあります。実質的には同じ意味で使われることが多いですが、厳密には少しニュアンスが違います。
「家賃」は居住用不動産で使われることが多い言葉。「賃料」は事業用・商業用テナントの文脈で使われることが多い。店舗・事務所を借りる場合は「賃料」が正確な表現です。ただし、どちらで調べても出てくる情報は基本的に同じなので、あまり気にしなくて大丈夫です。
賃料相場の正しい調べ方
方法①:物件ポータルサイトで「成約事例」を探す
まずはネットで調べるのが入口です。ただし、ここで注意が必要なことがあります。
物件ポータルサイト(ビルコム・テナントサーチ・アットホーム等)に掲載されているのは、あくまで「現在募集中の物件」の提示賃料です。実際にいくらで成約したかという「成約賃料」は公開されていないことが多い。
ポータルで調べるときは、同じエリア・同じ広さ・同じ階数・似た築年数の物件を複数比較して、「提示賃料の分布」を把握することが目的です。相場の「上限と下限」を掴む使い方が正しい。
ポータルで比較するときの条件設定
- エリア:検討物件から徒歩5分圏内に絞る
- 広さ:検討物件の坪数±30%の範囲で探す
- 階数:1階路面、2階以上、地下で分けて比較する
- 用途:飲食可・事務所可など同じ用途条件で絞る
- 築年数:築年数が近い物件と比べる(古すぎる物件は別相場)
方法②:仲介会社に「成約事例」を聞く
これが一番正確な方法です。地域に根ざした仲介会社は、過去の成約事例を持っています。「このエリアで、この条件の物件は実際いくらで決まっていますか?」と直接聞くことで、ポータルには出てこない実勢の賃料相場を教えてもらえます。
ただし、ここで一つ正直に言っておきます。仲介会社も商売なので、「あなたが気に入っている物件」の賃料が適正かどうかを、中立に教えてくれるとは限りません。複数の仲介会社に聞き比べることが大切です。
コトスタイルに相談していただく場合は、物件選びから内覧まで一緒に動きます。特定の物件を成約させることが目的ではなく、お客様に合った物件を一緒に探すことが目的なので、相場より高い物件には正直にそう伝えます。
方法③:実際に現地を歩いて「空き物件」を観察する
これは意外とやっている人が少ない方法ですが、かなり有効です。
検討エリアを実際に歩いて、「入居募集」の張り紙や看板が出ている物件を探します。そこに書いてある連絡先に電話して、「賃料を教えてください」と聞くだけです。数件回るだけで、そのエリアの生の賃料感覚が掴めます。
また、「長期間空いている物件」は要チェックです。3ヶ月以上空いている物件は、提示賃料が相場より高い可能性があります。逆に言えば、そういう物件は交渉の余地が大きいとも言えます。
京都・関西エリア別テナント賃料相場(2026年版)
京都市内のエリア別賃料相場
コトスタイルがこれまで関わってきた物件情報と現地調査をもとにした、2026年時点の参考相場です。坪単価(1坪あたりの月額賃料)でまとめています。
| エリア | 1階路面(坪単価) | 2階以上(坪単価) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 四条河原町・木屋町 | 3〜5万円 | 1.5〜2.5万円 | 京都最高値エリア。観光客・若年層集中 |
| 四条烏丸・烏丸御池 | 2.5〜4万円 | 1.2〜2万円 | ビジネス街。昼間人口多く飲食需要高い |
| 三条・二条エリア | 2〜3万円 | 1〜1.8万円 | 町家・古民家物件多い。観光×生活混在 |
| 祇園・東山エリア | 2.5〜4万円 | 1.2〜2万円 | インバウンド特化。季節変動あり |
| 北山・下鴨エリア | 1.5〜2.5万円 | 0.8〜1.5万円 | 住宅街。地域密着型・リピーター重視業態向き |
| 西院・太秦エリア | 1〜2万円 | 0.7〜1.2万円 | 生活動線上。地元客中心で安定しやすい |
| 伏見・醍醐エリア | 0.8〜1.5万円 | 0.5〜1万円 | 賃料安め。広い物件確保しやすい |
| 向日市・長岡京・大山崎 | 0.7〜1.3万円 | 0.4〜0.8万円 | 郊外。駐車場確保しやすく車客に強い |
※上記は2026年時点の参考値です。物件の条件(築年数・間口・設備状況等)により大きく変動します。
大阪・神戸エリアの参考相場
京都以外の関西主要エリアについても参考値を載せておきます。
| エリア | 1階路面(坪単価) | 特徴 |
|---|---|---|
| 大阪・心斎橋〜難波 | 4〜8万円 | 関西最高値。インバウンド・若年層集中 |
| 大阪・梅田〜北新地 | 3〜6万円 | ビジネス×歓楽街。夜間売上比率高い |
| 大阪・本町〜堺筋本町 | 2〜4万円 | オフィス街。ランチ需要が強い |
| 神戸・三宮〜元町 | 2〜4万円 | ファッション・飲食混在。客層の幅広い |
| 大阪・天満〜福島エリア | 1.5〜3万円 | 飲食激戦区。個人店の出店が活発 |
※大阪・神戸エリアはコトスタイルの主戦場である京都・関西周辺の参考値です。詳細は各地域の仲介会社にご確認ください。
「1階路面」と「2階以上」で賃料がこれだけ変わる
同じエリア・同じ広さでも、1階の路面店と2階以上の物件では賃料が1.5〜3倍違うことがあります。理由は集客力の差です。
ただし「2階だから集客できない」は業態による話です。美容室・ネイル・整体・パーソナルジムなど予約制の目的来店型業態なら、2階でも問題ありません。むしろ、賃料を抑えた分を設備や集客施策に使う方が、長期的には有利なことも多い。
「1階路面にこだわる」前に、「自分の業態は通りすがりの集客が必要か」を確認してください。その答えで、見るべき物件が変わります。
提示賃料は交渉できる——根拠の出し方3パターン
賃料交渉は「当たり前のこと」
賃料交渉というと、なんとなく「失礼じゃないか」「断られるのが怖い」と感じる方がいます。でも、テナントの賃料交渉は商習慣として普通のことです。遠慮する必要はありません。
オーナーも、空室が続くよりは少し安くても入居してもらいたいと思っていることが多い。特に、長期間空いている物件ほど交渉が通りやすい傾向があります。
大切なのは「値引きしてほしい」と言うだけでなく、根拠を持って交渉することです。根拠があると、オーナーも「なるほど」と動きやすくなります。
根拠①:周辺の類似物件との比較
「同じエリアで同じくらいの広さの物件が、○万円で出ています」という情報は、交渉の最も強い根拠になります。
ポータルサイトや現地調査で集めた類似物件の賃料情報をまとめて、仲介会社経由でオーナーに提示する。これだけで、提示賃料から1〜2万円下がるケースは珍しくありません。
ただし、比較する物件は「本当に似た条件」であることが大切です。築年数・広さ・階数・設備が大きく違う物件と比べても、説得力がありません。
根拠②:空室期間の長さを指摘する
「この物件、○ヶ月空いていますよね」という指摘は、オーナーにとってリアルに響きます。
空室が続くということは、提示賃料が相場より高いか、何か理由があるということ。3ヶ月以上空いている物件なら、「空室損失(毎月払われない賃料)」を引き合いに出して交渉する余地があります。
空室損失の計算例
月額賃料20万円の物件が6ヶ月空室 → オーナーの損失 = 120万円
「月2万円の値引きでも、すぐ入居するなら空室が続くより得です」という交渉が成立しやすくなります。
根拠③:自分の業態・信頼性をアピールする
オーナーが賃料交渉に応じるかどうかは、数字だけじゃなく「この人・このお店に貸したい」という感情も関係します。
飲食業態なら食品衛生の資格や事業計画書、美容業なら資格と集客の実績など、「ちゃんとしたお店を出します」という信頼感を示すことで、賃料交渉の土台がつくれます。
私が内覧同行するとき、お客様が物件に真剣に取り組んでいる姿勢を一緒に見せることで、オーナー側の心証がよくなることがあります。賃料交渉は「数字の話」だけじゃないんです。
賃料交渉で使える選択肢
①フリーレント(賃料無料期間)を交渉する
フリーレントとは、契約開始から一定期間(1〜3ヶ月程度)、賃料を無料にしてもらう交渉です。
内装工事の期間中は営業できないので、その分の賃料を払わなくて済むようにする、という考え方です。オーナー側も「賃料を下げる」より「一時的に無料にする」方が受け入れやすいことがあります。長期契約を前提に交渉すると、フリーレントが通りやすくなります。
フリーレント交渉のポイント
- 工事期間(1〜2ヶ月)を根拠に「工事中はまだ営業できない」と伝える
- 3年以上の長期契約を前提に交渉すると通りやすい
- フリーレント期間中も管理費・共益費は発生する場合があるので確認する
- 退去時の原状回復義務との兼ね合いも確認しておく
②段階賃料(スタートを低く設定する)
段階賃料とは、最初の一定期間は賃料を低く設定して、徐々に引き上げていく契約方式です。
「オープン直後は売上が安定しないから、最初の1年は月15万円、2年目から18万円、3年目から20万円に」という形で交渉します。オーナーにとっては長期入居が確約される安心感があり、テナントにとっては開業初期の資金負担が下がる。双方にメリットがある方式です。
③賃料以外の条件で折り合いをつける
賃料そのものが下がらなくても、他の条件で実質的なコストを下げられることがあります。
敷金の減額
通常6ヶ月分の敷金を3〜4ヶ月に減らしてもらう。初期費用の現金負担が大幅に下がります。
原状回復範囲の明確化
退去時にどこまで元に戻すか、契約前に明確にしておく。あいまいなまま契約すると、退去時に多額の費用を請求されるリスクがあります。
設備の引き継ぎ
前テナントが残した設備(エアコン・厨房機器等)を無償で使わせてもらう交渉。内装工事費が大幅に下がります。
更新料の廃止・減額
2年ごとの更新時に発生する更新料をなくしてもらう、または半額にしてもらう交渉。長期目線でのコスト削減になります。
相場より高い物件を選んでいい場合・選んではいけない場合
相場より高くても選んでいい3つのケース
「相場より安い方がいい」は基本ですが、相場より高い物件を選ぶことが正解のケースも確実にあります。
ケース①:設備が整っていて初期費用が大幅に下がる居抜き
賃料が相場より月3万円高くても、内装・設備工事費が150万円安くなるなら、4年以上使えば元が取れます。トータルコストで判断することが大切です。
ケース②:そのエリアにしかない「唯一性」がある
競合が少ない、ターゲット客層がそのエリアに集中している、など業態との相性が抜群な立地は、賃料が高くても成立することがあります。「この立地でしか成立しない業態」であれば高くても選ぶ価値があります。
ケース③:集客に自信があり、月商の計算が成立する
「高い家賃を払っても、このエリアなら月商○○万円は確実に取れる」という根拠がある場合。感覚ではなく数字で計算してから判断してください。
相場より高い物件を選んではいけない2つのケース
| NGなケース | なぜNGか |
|---|---|
| 「憧れ」だけで選ぶ | 感情的な判断は、開業後の資金繰りを直撃します。「あのエリアに出したかった」という気持ちは、毎月の固定費の重さで消えます。 |
| 月商の計算が成立していない | 家賃比率が20%を超えるような物件は、よほど高単価・高回転でないと長続きしません。「なんとかなる」は危険な発想です。 |
コトスタイルがこれまで関わってきた300件以上の開業支援の中で、撤退してしまったお店のパターンに共通しているのは「賃料の重さに業態が追いつかなかった」ことです。
私自身、コトスタイルを立ち上げた当初に資金繰りで本当にしんどい時期がありました。お客さんには迷惑をかけなかったけど、あの「毎月の固定費が圧しかかる感覚」は今でも覚えています。だから正直に言えます。相場より高い物件を選ぶときは、慎重に慎重を重ねてほしい、と。
賃料は一度契約すると、簡単には下げられません。開業の興奮が冷めた後も、毎月払い続けられる金額かどうか。それが判断の基準です。
まとめ|賃料相場は「武器」として使う
テナントの賃料相場を知ることは、ただの情報収集ではありません。物件を選ぶための判断基準であり、交渉のための武器になります。
- 提示賃料は「オーナーの希望額」。相場とは別物と理解する
- 相場の調べ方は、ポータル・仲介・現地調査の3つを組み合わせる
- 賃料交渉は当たり前のこと。根拠を持って臨む
- フリーレント・段階賃料・敷金減額など、賃料以外の交渉余地もある
- 相場より高い物件も、トータルコストで考えれば正解のケースがある
- 「払い続けられる金額か」を開業の興奮が冷めた状態でも考える
物件選びは、開業の中で最も大きな決断のひとつです。相場情報を武器に、一人で抱え込まずに進めてほしいと思っています。
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「提示賃料が相場として適正か判断してほしい」「交渉の進め方がわからない」
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