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京都で長く続く店の光と影のコントロール術を解説

【第3回】料理も人も魅せる!京都で長く続く店が実践する「光と影」のコントロール術

京都で長く続く店の光と影のコントロール術を解説

先日、奥さんと外食したときに気づいたことがあります。

同じ通りに、ほぼ同じ規模の飲食店が2軒並んでいました。一方は天井に蛍光灯が整然と並んで、店内全体が均一に明るい。もう一方は、テーブルの上だけに温かい光が落ちていて、天井はほとんど暗い。料理の内容も価格帯も似たようなもの。でも、入りたいと思ったのは間違いなく後者でした。「なんか、あっちの方がいいね」と奥さんも言っていた。

結論から言います。照明は「お店を明るくするための道具」ではありません。料理を美味しく見せ、お客様を美しく照らし、空間に居心地をつくる——京都で長く続くお店は、照明をそういうものとして使っています。

コトスタイルはこれまで京都・関西エリアで300件以上の店舗設計・施工に関わってきました。その中で私が確信していることがあります。照明の設計は、内装工事の中で最も「費用対効果が高い投資」のひとつです。

今回は「光と影のコントロール術」について、現場で学んできたことをできる限り具体的にお伝えします。

📋 この記事でわかること

  • 「明るいお店が正解」という思い込みが生むリスク
  • 光の当て方3パターンと、それぞれの効果
  • 色温度(ケルビン)と演色性——料理を美味しく見せる光の選び方
  • お客様を「美しく見せる」照明設計の具体的な方法
  • スケルトン天井を安く・かっこよく仕上げる光と影のテクニック
  • トイレの照明に関する、多くのお店が犯しているミス

照明設計の本質——「どこを暗くするか」を先に決める

照明の打ち合わせをするとき、多くのオーナーさんが「どんな照明器具を使うか」から話し始めます。でも私はいつも、その前に聞くことがあります。

「どこを暗くしたいですか?」

少し意外に思われることもあるんですが、私はこれが照明設計の本質だと思っています。光の設計とは、「どこに光を当てるか」より「どこを暗くするか」を先に決めることです。暗くする場所が決まれば、光を当てる場所は自然と絞られます。

均一に明るい空間が生む「息苦しさ」

コンビニやファストフード店を思い浮かべてください。天井に蛍光灯が並んで、空間の隅々まで均一に明るい。あの照明は「商品のパッケージをはっきり見せる」「短時間で食事を済ませてもらう」という目的に対して、正しい選択です。

でも、お客様にゆっくりくつろいでほしいお店ではどうでしょうか。すべてが均一に明るい空間には「影」がありません。影がない空間は立体感に欠けて、のっぺりと見えます。そして、常に四方八方から光を浴びている状態は、お客様に「見られている」という無意識の緊張感を与えます。

長時間いると疲れてしまう。それが「均一に明るい空間」の正体です。

テーブルだけに光を落とすと、何が起きるか

たとえばですが、天井からの全体照明を極力抑えて、テーブルの上だけに温かいスポット光を落とす設計をしてみてください。テーブルの周囲には自然と柔らかな暗さが生まれます。

するとお客様の視線は、自然と目の前の料理と向かいに座る人へと集中します。隣の席のお客様の存在感は影の中に溶けて薄くなり、隣席が近くても「2人だけの世界」に没入できます。

光と影のコントラストが、プライベートな空間感を作り出す。これが、照明設計の核心です。

コトスタイルの現場から

設計の初期段階で、私はよく「天井を暗くしましょう」と提案します。最初は少し戸惑われることもあるんですが、完成したお店に入ってもらうと「全然暗く感じない。むしろ落ち着く」という反応をいただきます。人間の目は「明るいところに向く」という性質があります。テーブルさえ明るければ、天井が暗くても手元は十分に明るく感じられます。「暗さを設計する」という発想の転換が、照明設計の第一歩です。

光の当て方3パターン|料理のシズル感を引き出す

「料理は目で味わう」という言葉がありますが、もう少し正確に言うなら「料理は光で味わう」と思っています。どれほど腕のいい料理人が作った一皿でも、光の当て方を間違えれば魅力は半減します。照明は、料理を仕上げる最後の調味料です。

私が現場でよく使う光の当て方は、大きく3つのパターンに分けられます。

パターン①:スポットで「ガツンと」照らす

対象をはっきりと強調したいときに使います。鉄板焼きのお店で、シェフの手元やジュージューと焼けるお肉に、狭い角度の強いスポットを当てる。お肉の脂がギラっと艶めかしく輝いて、臨場感と高級感が一気に高まります。

寿司店でも同じです。ネタをピンポイントで照らすと、ネタの透明感や色が際立つ。カウンターの向こうで職人が仕事をしている場面に、スポットが当たっていると、それだけで「ここはいいお店だ」という印象を与えます。

パターン②:壁を「撫でる」ように照らす

素材の凹凸(テクスチャー)を際立たせたいときに使います。土壁・レンガ・割り肌の天然石など、表面に凹凸がある素材の斜め上から光を当てると、微細な陰影が浮かび上がります。

第2回でお伝えした石材の「割り肌仕上げ」は、この光の当て方と組み合わせることで最大限の魅力が出ます。素材と光、どちらか一方だけでは半分です。両方が揃って初めて、その空間の顔ができあがります。

パターン③:空間を「フワッと」包み込む

和紙を通した行灯のような、大きくぼんやりした光源を使います。空間全体を柔らかく温かい空気で包みたいとき——和食店の客席や、ゆっくりお酒を飲めるバーなどで効果的です。

この光は「源泉がどこかわからない光」です。どこから光が来ているかはっきり見えないと、人はリラックスします。光源が目に見えるほど眩しいと、どうしても視線が引っ張られて落ち着けません。光源をうまく隠すことも、照明設計の重要なスキルです。

光の当て方 効果 向いている業態・シーン
スポットで強く照らす 対象の存在感・臨場感が高まる 鉄板焼き・寿司・ショーケース
壁を撫でるように照らす 素材のテクスチャーが際立つ 土壁・レンガ・天然石の壁面
フワッと包み込む リラックスした柔らかい空気感 和食・バー・長居させたいカフェ

色温度と演色性——料理と人を美しく見せる光の選び方

光の「当て方」と同じくらい重要なのが、光の「色」です。この話は少し専門的になりますが、知っておくと照明選びが全然変わります。わかりやすく解説します。

色温度(ケルビン)——食欲を刺激する光の「温度」

照明の光の色は「色温度(K=ケルビン)」という数値で表されます。

色温度の種類 ケルビン数 光の色 向いている用途
電球色 2700〜3000K 赤みがかった温かい光 飲食店・バー・くつろぎ空間
温白色 3500K前後 やや温かみのある白い光 物販店・カフェ
昼白色 5000K前後 自然光に近い白い光 清潔感を訴求する業態・寿司
昼光色 6500K以上 青みがかった冷たい光 オフィス・コンビニ・作業空間

食欲を刺激し、料理を美味しく見せるには「電球色(2700〜3000K)」が基本です。お肉の赤み、野菜の鮮やかさ、揚げ物の照り——これらはすべて温かい光の下で最も魅力的に見えます。

ただし、寿司屋や鮮魚を扱う業態では少し例外で、魚の鮮度や職人の手元の清潔感を見せたい場合は「昼白色(5000K前後)」が向いていることがあります。業態のコンセプトと合わせて選ぶことが大切です。

演色性(Ra)——同じ色温度でも、見え方が全然違う

色温度と並んで重要なのが「演色性(Ra)」です。これは「その光の下で、物の色がどれだけ自然に見えるか」を示す数値で、Ra100が太陽光と同じ最高値です。

Ra値が低い照明では、料理の色がくすんで見えたり、お客様の顔色が悪く見えたりします。Ra値が高い照明は、物の本来の色を正確に再現してくれます。

飲食店では「Ra90以上」の照明を選ぶことを強くお勧めします。同じ色温度でも、Ra値が高い照明に切り替えるだけで、料理の見え方は明らかに変わります。コスト削減のためにRa値の低い安価な照明を選ぶと、料理の魅力が半分以下になることがあります。

お客様を「美しく見せる」思いやりの照明設計

これは、私が照明設計で最も大切にしていることです。

「料理をおいしく見せる照明」と「お客様を美しく見せる照明」は、実は大半が重なります。でも意識しておかないと、片方だけになってしまう。デートや女子会でお店を選ぶとき、女性は無意識のうちに「自分がきれいに見える空間かどうか」を感じ取っています。

料理が美味しくて内装がおしゃれでも、「自分、疲れて見える」と感じた瞬間に、そのお店のリピート率は下がります。逆に「なんか今日、いい写真撮れた」と思えたお店には、また来たくなる。お客様を美しく見せることは、最高のおもてなしであり、リピーターを生む設計です。

真上からのスポットライトは「老けさせる」

お客様の顔色を悪く見せてしまう最大の原因は、照明を真上から直接顔に当てることです。真上からの強い光は、目の下・鼻の下・あごの下に濃い影を作ります。クマやシワが強調されて、老けた印象になる。これはお客様にとってとても残酷な仕打ちです。

テーブルの反射光を「レフ板」として使う

では、どうすればいいか。私がよく使うのは「テーブルの反射光」を活用する方法です。

テーブルの天板を明るい色(白木・明るい大理石・白いクロス)に設定して、そこに光を落とします。テーブルに反射した光が下からお客様の顔をふんわりと照らす。これがレフ板と同じ効果を生んで、顔の影を自然に消してくれます。

もうひとつは「低い位置に光源を置く」方法です。テーブルの上にキャンドルを置いたり、視線の高さより低い位置に笠つきのスタンド照明を置いたりする。光源を目に入れないようにカバーしながら、下から柔らかく顔を照らす。リラックスした表情が引き出されて、その場にいる全員が少し美しく見えます。

特別なことをしているわけじゃない。でも、こういう細部に「お客様への思いやり」が詰まっているお店が、京都で長く続いているお店です。

コトスタイルの現場から

ネオジウムランプという特殊なランプがあります。赤みをきれいに発色させる効果があって、この光の下ではお肉が赤々しく美味しそうに見えるのはもちろん、女性の肌の血色もほんのりとピンクに見えます。「料理を美しく見せる光は、人も美しく見せる」という好例です。コスト的には通常のランプより少し上がりますが、その効果を考えると十分な投資です。

「見せないこと」で空間の価値を上げる光と影の使い方

照明の話で、意外と知られていない使い方があります。光と影を使って「見せたくないものを隠す」という方法です。

スケルトン天井を「かっこよく・安く」仕上げる方法

近年、天井の仕上げ材(ボード)を張らずに、コンクリートの躯体や配管をそのままにする「スケルトン天井」を採用するお店が増えています。天井が高く感じられて開放感があるのが魅力ですが、無骨な配管・空調設備・配線が丸見えになるという難点もある。

でも、これは光と影で解決できます。

まず、むき出しになった天井裏の設備を全部「黒」か「濃いダークグレー」で塗りつぶします。そして照明は、下(テーブルや足元)に向けてだけ当てて、天井には一切光を当てない。

すると何が起きるか。黒く塗られた天井は影の中に完全に溶け込んで、見せたくない設備が「存在しないもの」になります。お客様の視線は明るく照らされた手元に集中するので、天井の粗さはまったく気になりません。

内装工事のコストを大きく抑えながら、シックで落ち着いた空間を作り出せる。これは現場でよく使うテクニックのひとつです。

窓から入る光も「設計対象」

照明の話は、器具の話だけじゃありません。昼間の時間帯やガラス張りのお店では、外から入ってくる自然光と外の景色も、空間を構成する要素のひとつです。

「明るくて開放的なお店にしたい」という理由で、床から天井まで全面ガラス張りにしたくなる気持ちはわかります。でも、窓のすぐ外が交通量の多い道路だったり、見栄えの悪い看板があったりすると、せっかくの内装が台無しになります。

窓から何を見せて、何を隠すか——この「視線のトリミング」も照明設計と同じ考え方です。

  • 窓の外に背の高い植栽を置いて、道路の雑多な景色をスクリーンする
  • 窓の下半分だけにすりガラスフィルムを貼って、空だけを取り込む
  • 座席の高さを少し上げて、お客様の目線を自然と空へ向かわせる

外の景色も「インテリアの一部」だという意識で設計すると、空間の完成度が一段上がります。

意外な盲点——トイレの照明だけは「明るくする」が正解

ここまで「暗さを設計する」という話をしてきました。でも、一箇所だけ例外があります。

トイレです。

シックな客席の雰囲気に合わせて、トイレの照明もぐっと落として「ムードのある空間」にしているお店を、たまに見かけます。デザイン的には統一感があって、一見おしゃれに見えるかもしれません。でも、これは間違いです。

暗いトイレが「荒れる」メカニズム

トイレの照明が暗いと、落ちているゴミや水はね、便器の汚れが見えにくくなります。すると人は無意識に「少し汚してもバレないだろう」という心理になります。これは誰かが意地悪をしているわけじゃなくて、人間の自然な心理です。

結果として、トイレが荒れやすくなる。そして、客席がどれだけ美しくても、トイレが不潔なお店はお客様の信頼を一瞬で失います。二度と来てもらえなくなる。

「ランチが食べられるトイレ」という基準

私が現場でよく言うのが「ランチが食べられるくらい清潔なトイレを作りましょう」という話です。少し極端な表現ですが、それくらい明るく清潔なトイレが理想だということです。

トイレを明るくすると、汚れがよく見えます。すると、お客様は「汚してはいけない」という気持ちになる。スタッフも汚れを見つけやすくなって、清掃のモチベーションが上がります。明るいトイレは、きれいなトイレを維持するための設計です。

手洗い場には大きな鏡を置いて、肌がきれいに見える柔らかな照明を加える。女性のお客様にとって、トイレは客席の緊張感から解放されて、メイクや身だしなみを整える大切な場所です。そこまで含めて「居心地の設計」だと私は思っています。

コトスタイルの現場から

トイレの設計にこだわっているお店は、長く続く傾向があると感じています。「トイレにここまでお金と気持ちをかけているお店が、客席を手抜きするはずがない」という信頼感がある。お客様は意識しないうちに、そういうことを感じ取っています。トイレは目立たない場所ですが、お店の「本気度」が一番正直に出る場所です。

よくある質問(FAQ)

Q. 照明の予算は、内装全体のどのくらいを割り当てるべきですか?

一般的に内装工事全体の10〜15%程度を照明に使うケースが多いですが、業態によって変わります。私が言えることは「照明は削ってはいけない費用のひとつ」ということです。内装材の素材を少し抑えてでも、照明の質を上げる方が空間全体の印象は良くなります。照明は、他の費用の「乗数」として機能します。

Q. 電球色と昼白色、どちらを選べばいいかわかりません。

飲食店なら「電球色(2700〜3000K)」がベースです。ただし、寿司・鮮魚・清潔感を訴求する業態では「昼白色(5000K前後)」が向いている場合もあります。迷ったら業態のコンセプトと提供するメニューの色を考えながら、設計担当者に相談してください。異なる色温度を混在させる方法もあります。

Q. 演色性(Ra)の高い照明は、通常のものより高いですか?

Ra90以上の照明は通常のものより少しコストが上がりますが、価格差は以前ほど大きくありません。LED照明の普及でRa値の高い製品が増えて、選択肢が広がっています。飲食店では料理の見え方に直結するため、ここはコスト削減の対象にしないことをお勧めします。

Q. 既存のお店の照明を改善したい場合、工事が必要ですか?

照明器具の交換や追加だけで改善できることも多いです。たとえば電球をRa値の高いものに替えるだけ、もしくはテーブルにスタンドライトを追加するだけでも、空間の印象はかなり変わります。まずは小さな変化から試してみることをお勧めします。

まとめ|光は「足すもの」ではなく「設計するもの」

今回お伝えしたことを整理します。

  • 照明設計は「どこを暗くするか」を先に決めることから始まる
  • 均一に明るい空間は「長居したくない空間」になりやすい
  • 光の当て方には「スポットで強く」「壁を撫でる」「フワッと包む」の3パターンある
  • 飲食店の色温度は「電球色(2700〜3000K)」が基本。演色性はRa90以上を選ぶ
  • テーブルの反射光・低い位置の光源で、お客様の顔を自然に美しく照らせる
  • スケルトン天井は「黒く塗って下だけに光を当てる」とコスト削減×かっこよさが両立できる
  • トイレだけは例外——「ランチが食べられるくらい明るく清潔に」が正解

外食が好きで、いろんなお店に行くたびに照明を見てしまう職業病があります。「あ、この照明の設計、うまいな」と思うお店は、決まって長く続いているお店です。派手な器具を使っているわけじゃない。でも光の落とし方が、空間の居心地を決定的に変えている。

光は「足すもの」ではなく「設計するもの」。その意識を持つだけで、お店の照明は大きく変わります。

次回(第4回)は「視線と距離感の設計——居心地の良さを決める見えない境界線」についてお伝えします。席の配置と仕切りの使い方で、お客様に「自分だけの空間」を感じさせる方法を解説します。

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照明設備の設置基準については京都市の保健所窓口でもご確認いただけます(美容所・飲食店の照度基準あり)。