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京都で長く続く店の素材選びの法則を解説

【第2回】京都で長く続く店が知っている、時を重ねて美しくなる「素材選び」の法則

京都で長く続く店の素材選びの法則を解説

休日に器めぐりをするのが好きで、京都の街をよく歩きます。

先日も、古い町家を改装したギャラリーで、ひとつの小鉢を手に取りました。作家もののシンプルな器で、たぶん何年も使われてきたもの。縁が少し欠けていて、表面には細かいひびが入っている。でも、それがなんとも言えず美しかった。「使い込まれた時間」が、その器の一部になっていました。

その感覚って、お店の空間にも全く同じことが起きると思っています。

結論から言います。京都で長く続くお店の秘密は「オープンした瞬間が一番美しい」空間ではなく、「使い込まれるほどに味が出る」空間を最初から設計しているところにあります。そしてその設計の核心は、素材選びにあります。

コトスタイルはこれまで京都・関西エリアで300件以上の店舗設計・施工に関わってきました。その現場で見えてきた「素材選びの法則」を、今回は惜しみなくお伝えします。予算のことも含めて、正直に話します。

📋 この記事でわかること

  • 床材・壁材の選び方と、長持ちする素材の考え方
  • 「特等席(お客様が触れる場所)」に本物を使うべき理由
  • 無垢材と石材の特性・塗装の違いと選び方
  • フェイク素材を「安っぽく見せない」方法
  • 本物とフェイクの最適な比率と「金物」の使い方
  • 経年変化(エイジング)を楽しめるお店づくりの考え方

「新築がピーク」のお店は、長く続かない

これは少し厳しい言い方かもしれませんが、事実として言わせてください。

「新しくてピカピカの状態が一番美しい」お店は、時間が経つほど魅力が薄れていきます。逆に「使い込まれるほどに味が出る」お店は、時間が経つほど魅力が増していく。その違いは、オープンして3年も経てばはっきりと見えてきます。

私がデザインの仕事を始めた頃、ある先輩から「いいお店は完成した日より、5年後の方が美しいやろ」と言われたことがあります。最初はよくわからなかったんですが、いろんなお店に携わってきて、今はその意味がよくわかります。

時間が「傷」になるか「味」になるか——それは、最初に何を選んだかで決まっています。

素材選びは「今をきれいに見せるための選択」ではなく、「10年後も誇れるお店のための投資」です。そういう視点で素材を選んでいるお店が、京都で長く続いているお店の共通点です。

コトスタイルの現場から

打ち合わせで「少し予算を削りたい」という話になったとき、私がよく言うのは「削るなら、触れない場所から削りましょう」ということです。お客様の手が届かない天井の素材と、毎回手が触れるカウンターの天板では、同じ金額でも「削った後の見え方」がまったく違います。削り方の順番が、仕上がりの質を決めます。

空間の印象を決める「床材」と「壁材」の選び方

お店に入ったとき、視覚が最初に受け取る情報の大半は「床」と「壁」です。天井より先に、無意識のうちに床と壁が目に入って、空間の雰囲気を判断しています。それだけ、この2つの素材選びは重要です。

床材——強靭さとメンテナンス性が最優先

床はお店の中で、最も過酷な環境にさらされる場所です。雨の日には泥や砂が持ち込まれ、飲食店であれば料理や飲み物がこぼれる。毎日何十人、何百人というお客様が体重をかけて歩き回る。どんなストレスにも負けない強靭さと、スタッフが毎日清潔に保てるメンテナンス性が求められます。

代表的な床材の特性を整理します。

素材 メリット デメリット・注意点 おすすめ度
フローリング
(木材)
温かみがある。誰からも好かれる 水気・傷に弱い。定期的なメンテナンスが必要
適切な使用箇所で
石材
(タイル含む)
高級感がある。傷がつきにくい コストが高い。濡れると滑りやすい
水回りに適材
カーペット 足触りがいい。吸音性が高い シミ・汚れがつきやすい。維持費がかかる
業態を選ぶ
硬質塩ビタイル 丈夫・水拭きOK・低価格。木目・石目の再現性が高い 本物ではない(ただし見抜かれにくい)
ベース床材の最適解

私が現場でよく使うのが「硬質塩ビタイル」です。水拭きができて汚れに強く、土足で踏み続けても丈夫。近年の印刷技術の向上で、木目や石の質感の再現性が本当に上がっています。コストパフォーマンスが高く、ベースとなる床材としては最強の選択肢のひとつです。

壁材——「一面だけ本物」がグレード感を変える

日本ではコストと施工性の良さから、壁材の大半は「ビニールクロス(壁紙)」が使われています。種類が豊富で水拭きもできる。使い勝手は悪くありません。

ただ、全面をビニールクロスで仕上げると、どこか「普通の空間」で終わってしまうことがある。一面だけ変える。それで全体の印象が変わります。

お客様の視線が集まる壁の一面だけ、本物の木板・レンガ・左官の塗り壁を使う。その一面が「本物の揺らぎ」を持つことで、他のクロスも引き上げられたように見えます。全体を変えなくていい。一箇所を変えるだけで、空間のグレード感は大きく変わります。

お客様の手が触れる「特等席」には本物を使う

予算には限りがある。それは現実として受け入れた上で、どこに本物を使うべきか——この判断が、素材選びの核心だと思っています。

答えは明確です。お客様が直接手で触れる場所に、本物を使ってください。

飲食店のカウンター天板、入り口のドアの取っ手、椅子の肘掛け——こういった部分がお店の「インターフェイス」です。人間は視覚より先に、触覚で素材の本物を感じ取ります。目で見てわからなくても、手で触れた瞬間に「あ、これ本物だ」とわかる。その瞬間に、お店への信頼感が生まれます。

無垢の木材——手をかけるほどに育つ素材

カウンター天板に無垢の木材を使うと、音が変わります。グラスや小鉢を置いたときの「コトン」という音の響きが、合板とは全然違う。酔って少し腕を載せたとき、伝わってくる温もりも違う。言葉にしにくいけれど、確実に伝わる「本物の感触」があります。

無垢材を使うとき、塗装の選択が重要になります。

塗装の種類 特徴 向いているお店
浸透系
(オイル・蜜蝋)
木の内部に染み込む。しっとりした自然な手触り。傷が「味」になりやすい 経年変化を楽しみたいお店。和食・カフェ・バーなど
皮膜系
(ウレタンクリア)
表面をツヤツヤの膜で覆う。水・汚れに強い。木本来の質感は薄れる 清潔感を優先したいお店。衛生基準が厳しい業態

私は浸透系の塗装が好きです。使い込むほどに艶が出て、傷さえも経年変化の一部になっていく。本物の素材は時間をかけて育つことが前提になっています。焦らなくていい。時間が味方してくれる素材を選ぶ——それが、長く続くお店の設計の根本にある考え方だと思っています。

無垢材には反りや割れのリスクもあります。ただ、それもきちんと対処することで長く使えます。手をかけながら育てていける素材を、人と関わり続けるお店の空間に選ぶ——そういう考え方が、私の素材選びの根底にあります。

石材の選び方——魅力と弱点を知った上で使う

木材と並んで、空間に本物の上質さをもたらすのが「石材」です。地球が長い時間をかけて作り出した素材で、その模様の一つひとつは二度と同じものが存在しない。そこに、人工素材では絶対に出せない価値があります。

ただ、石材はカタログの写真に惚れて選ぶと失敗することがあります。必ず実物サンプルに触れてから選んでください。見た目は美しくても、実際に使う環境に適していない石材を選ぶと、維持が大変になります。

石材の種類と弱点

石材の種類 魅力 弱点・注意点 向いている場所
大理石 高級感の代名詞。上品な光沢 柔らかくて欠けやすい。水・酸に弱い 壁・カウンター天板(乾燥環境)
御影石
(みかげいし)
硬くて丈夫。酸にも強い 大理石より素朴な見た目 水回り・床・外構

「表面仕上げ」で全く違う顔を見せる

同じ石でも、表面の仕上げ方次第で全然違う顔になります。これを知っておくと、石材の使い方の幅が一気に広がります。

  • 本磨き(ほんみがき):鏡面に磨き上げた仕上げ。都会的でモダンな高級感が出ます。ただし濡れると滑りやすいため、床には注意が必要です
  • 割り肌(わりはだ):原石を割ったままのゴツゴツした状態。最も石らしい野性味があります。間接照明を当てると、凹凸の影が美しい。私はこの仕上げが特に好きです
  • バーナー仕上げ:表面をバーナーで熱して弾けさせた仕上げ。適度なザラつきがあり滑りにくく、落ち着いた風合いになります

割り肌に照明を当てたときの陰影は、私がずっと好きなものです。光が凹凸をなでるように当たったとき、石の表面に浮かび上がる影の表情——それは、どんな人工素材でも出せない本物の迫力です。石材の表面仕上げは、空間に「時間と自然の気配」を持ち込む道具だと思っています。

フェイク素材を「安っぽく見せない」方法

ここで正直に言います。店舗の予算は、ほとんどのケースで「すべてを本物で揃えられる金額」ではありません。それが現実です。

でも、それは諦める理由にはなりません。フェイク素材をうまく使えば、本物と遜色ない空間を作ることは十分に可能です。大切なのは「フェイク素材をいかに安っぽく見せずに使うか」という技術です。

フェイク素材が見破られる「4つのサイン」

フェイク素材は今や驚くほどリアルになっています。木目調のメラミン化粧板や石目調の塩ビタイルは、パッと見ただけでは本物と見間違えるほどです。でも、プロが確認すると必ず見抜けます。なぜかというと、フェイク素材には「4つのサイン」があるからです。

No. サインの種類 具体的な見分け方
質感の不自然さ 天然素材には色むらや不規則な揺らぎがあります。フェイクは柄が規則的すぎる、またはリアルを追求しすぎて逆にわざとらしく見えます
温度の違い 木の温もり、石のひんやり感は、プラスチック・塩ビ系では再現できません。触れた瞬間にわかります
音の響き コップを置いたときの音、叩いたときの硬さ・反発力が本物と明確に違います
断面の薄さ 角(コーナー)や断面を見ると、薄いシートを貼っているだけとわかります。本物の厚みがない

この4つのサインを知っておくことが、フェイク素材を「見破られない場所」に使うための前提になります。

本物とフェイクを「6:4」で混ぜる魔法

フェイク素材を安っぽく見せないための、最も効果的な方法があります。空間の中に、意図的に本物の素材を混ぜ込むことです。

全部がフェイクでできている空間は、工業製品特有の「予定調和」な空気が漂います。でも、その中に本物の無垢材・天然石・生きた観葉植物を混ぜると何が起きるか。本物素材が持つ「揺らぎ」と「不規則さ」が、フェイク素材の均一性を打ち消してくれます。

比率の目安は「フェイク6:本物4」。たったこれだけで、人間の目は錯覚を起こし、空間全体が「本物で構成されている」ように感じます。

少しの本物が空間全体の品格を引き上げる——これは、私が実際の設計で何度も経験してきたことです。すべてを本物にしなくていい。でも、ここぞという場所には本物を使う。その判断の精度が、設計者の腕の見せどころだと思っています。

コトスタイルの現場から

フェイクと本物の比率は「見えているフェイクと本物の比率」ではなく、「手の届く範囲での本物の比率」で考えることが大切だと思っています。遠くから見える壁面はフェイクでも、カウンターに触れたとき、ドアを開けたとき、椅子に座ったときに「本物」を感じられれば、お客様の印象は全体として「いいお店だな」になります。

空間を引き締める「金物」という最後のスパイス

フェイク素材を使った空間でも、一気にグレード感を引き上げてくれる素材があります。「金物(かなもの)」です。

ステンレス、真鍮、アイアン(鉄)——金属のパーツは空間に緊張感と品格をもたらします。たとえば、入口の重厚な真鍮のドアノブ、ステンレスで縁取られたシャープなカウンター、鉄の無骨なペンダントライト。

金物は面積として大きくない。でも、視線が自然と集まる場所に使うことで、空間全体を「引き締める」効果があります。料理でいえばスパイスみたいなもので、少量で全体の味を変えます。

真鍮・ステンレス・アイアンの使い分け

素材 空間に与える印象 よく使われる場所
真鍮 温かみのある上品な光沢。年月とともに深みが増す ドアノブ・取っ手・照明器具・水栓金具
ステンレス クールでシャープな都会感。清潔感がある カウンターの縁・厨房周り・手すり
アイアン(鉄) 無骨で力強い。インダストリアルな空気をつくる ペンダントライト・棚受け・看板フレーム

金物は特注だとコストが上がります。ただ、ドアノブ一つを真鍮にするだけでも、お店の入口の印象は変わります。「ここぞという一点に使う」という一点豪華主義の考え方が、金物の正しい使い方です。

真鍮は使い込まれるほどに色が変わっていきます。ピカピカの状態から、くすんで深みのある飴色へ——これもまた、時間がつくるエイジングです。器めぐりをしているときに「使い込まれた金属の取っ手」を見て美しいと思う感覚は、まさにこれです。

経年変化(エイジング)が生まれる素材の設計

ここまで話してきた素材選びの話は、全部ここに通じます。

傷や汚れが「劣化」になるか「味」になるか——それは、最初に何を選んだかで決まっています。プラスチックの表面についた傷は単なる傷です。でも無垢材についた傷は「歴史の刻み」になる。石材の表面が少しくすんできたとき、それは「使い込まれた証」になる。

京都で長く続くお店は、数年後・数十年後の姿を見据えて素材を選んでいます。「完成した瞬間が一番美しい」状態を目指すのではなく、「使い込まれるほどに味が出る」状態を最初から設計しています。

エイジングを味方にする素材の原則

現場での経験から出てきた、実践的な原則をお伝えします。

  • お客様の手が触れる場所:使い込むほどに艶が出る本物素材(無垢材・天然石・真鍮)を使う
  • 過酷な環境(水回り・床):耐久性が高く清潔に保てる素材(御影石・硬質塩ビタイル)を使う
  • 視線が届きにくい場所(天井・高い場所の壁):フェイク素材でコストを抑える
  • 視線が集まる一面:本物の素材を一点集中で使う

この原則を守れば、予算を賢く使いながら「時間が経つほど美しくなる空間」を作ることができます。

お店は、オープンした日から育ち始めます。素材選びは、その育ち方の設計です。

コトスタイルの現場から

10年前に設計したお店にたまに立ち寄ることがあります。カウンターの天板に使った無垢材が、いい色になっていたり。入口の真鍮のドアノブが飴色に変わっていたり。「この素材を選んでよかった」と思う瞬間です。逆に、オープン当初はきれいだったのに、今は単に古くなっただけに見えるお店との違いが、素材選びの段階で決まっているんだな、とそういうときに実感します。

よくある質問(FAQ)

Q. 予算が限られています。どこに本物の素材を使うべきですか?

カウンターの天板かドアノブ(取っ手)のどちらかから始めることをお勧めします。お客様が最も多く触れる場所です。そこに一箇所だけ本物を使うだけでも、空間の印象は変わります。「どこに集中するか」の判断が、素材選びの最初のポイントです。

Q. 無垢材は手入れが大変だと聞きました。実際はどうですか?

確かに手入れは必要ですが、難しくはありません。浸透系の塗装(オイル仕上げ)であれば、年に1〜2回オイルを塗り込む程度のメンテナンスで十分です。水をこぼしたらすぐ拭く、という日常のケアができれば、それだけで長持ちします。逆に手入れをしながら使い込んでいくことで、素材に深みが出てくるのを楽しめます。

Q. フェイク素材は本物に見えるんですか?

近年の印刷技術の向上で、見た目の再現性は非常に高くなっています。視覚的にはかなり本物に近い。ただ、触れたときの温度感と音の響きは本物とは違います。だからこそ、「触れない場所にフェイク、触れる場所に本物」という使い分けが重要になります。

Q. 石材は水回りに使っていいですか?

石材の種類によります。大理石は水や酸に弱いため、水回りには向きません。御影石(みかげいし)は硬くて酸にも強く、水回りや床に最適です。石材を水回りに使う場合は「御影石を選ぶ」と覚えておいてください。

まとめ|10年後を想像して、今の素材を選ぶ

今回お伝えしたことを整理します。

  • 「新築がピーク」のお店は長く続かない。素材選びは10年後を見据えた投資
  • 床材のベストはコスパの高い「硬質塩ビタイル」。壁は「一面だけ本物」でグレード感が変わる
  • お客様が触れる「特等席」(カウンター天板・ドアノブ等)には本物の素材を使う
  • 無垢材は浸透系塗装で「育てる」。石材は種類と仕上げを使い分ける
  • フェイク素材の4つのサインを知った上で「触れない場所」に使う
  • 本物:フェイク=4:6の比率で、空間全体が「本物」に見える
  • 金物(真鍮・ステンレス・アイアン)を「ここぞ」という一点に使って空間を引き締める

器めぐりをしているときにいつも思うのですが、本当に美しいものは「時間の層」を持っています。使われてきた歴史が、物の一部になっている。お店の空間も同じです。今日選ぶ素材が、積み重なってお店の空気になっていく。今日選ぶ素材が、10年後のお店の顔になります。

次回(第3回)は「計算された光と影——照明が空間と料理と人を美しく見せる方法」についてお伝えします。照明はデザインで最も費用対効果が高い投資のひとつです。

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