

器を見るのが好きで、休日に骨董市を歩くことがあります。
古い湯飲みや皿を手に取ると、土の質感、釉薬の色、縁の薄さ、持ったときの重さ——そういうものが、手のひらから全部伝わってくる。「これを作った人は、どんな顔をしてこれを削っていたんだろう」とついつい考えてしまうんです。
工事現場を歩くとき、私は同じ感覚を持ちます。
完成した空間の向こう側に、職人の指先が残っています。見えない下地に塗り込まれた、誰かの真剣な顔があります。お客さんには絶対に見えないけれど、確かにそこにある。
今回は、京都・西洞院三条で手がけたスクールの内装工事を、着工から美装工事(クリーニング)完了まで約1ヶ月にわたって記録しました。テナント工事の全工程を、できるだけリアルにお伝えします。
「図面はできたけれど、現場でどう形になっていくのか不安……」そういう方に、この記事が少しでも安心と楽しみに変わるきっかけになれば嬉しいです。
📋 この記事でわかること
- テナント工事の全工程(左官→軽天→ボード→クロス→建具→看板→美装)の流れ
- 各工程で職人が何にこだわり、なぜその順番で進めるのか
- 「見えない下地」にこだわることがお店の寿命を決める理由
- 15mmの浮かし看板など、現場ならではのちょっとした工夫の話
- 完成を「スタートライン」として捉えるコトスタイルの仕事観
目次
Week 1|床の下地から始まる。左官職人の技術に魅了された話
工事は「見えない部分」から始まる
テナント工事の初日、現場に足を踏み入れると、まずやることは「床の下地作り」です。
オーナーの方はたいてい、「早くきれいな壁紙が貼られないかな」「家具が入るのが楽しみ」とおっしゃいます。当然だと思います。でも現場の職人たちが一番神経をすり減らし、時間をかけるのは、お客さんの目には決して触れない「下地」の工事なんです。
今回の西洞院三条スクール様でも、まずは床に残った什器撤去後の凹みや段差を、左官職人がモルタルで丁寧に埋めていく作業から始まりました。

コテ一本で「ミリ単位」の平らを作る
左官工事の2日目、私はしばらく職人さんの手元を見ていました。
コテを滑らかに動かしながら、モルタルを伸ばしていく。見ていると簡単そうなのに、実際に触らせてもらうと全然うまくいかない。これはもう、完全に「技術」であり「芸術」です。

なぜここまでこだわるのか。
下地がガタガタだと、後からいくら高級な床材を貼っても、必ず浮きや剥がれが出ます。表面だけを綺麗に取り繕っても、土台が脆ければ長く続くお店には絶対につながりません。
内装工事の品質は、最初の「下地」でほぼ決まります。見えない部分にどれだけこだわれるか——それが職人の誇りであり、私たちが現場を管理するときに一番目を光らせる部分です。
Week 1-2|骨格が立ち上がる。軽天工事と図面の「外側」
LGSが立つと、空間の「顔」が見えてくる
床の下地が整うと、次はLGS(軽量鉄骨)と呼ばれる銀色の細い柱で、壁の骨組みを作っていきます。軽天工事です。
これが立ち上がったとき、いつも思うんですが——一気に空間の質感が変わります。何もなかったスケルトンの箱に、はじめて「ここが壁になる」「ここが廊下になる」という意志が宿る瞬間。

図面の数字より「人間の感覚」を信じる
骨組みを作るとき、私がいつも大切にしていることがあります。図面上の数字だけを鵜呑みにしないことです。
「実際に人がすれ違える幅か?」「座ったときに圧迫感はないか?」「この廊下の高さは、人が通ったとき閉塞感を感じないか?」——骨組みが立った段階で、自分の身体をスケール(定規)にして、何度も感覚を確認しながら微調整していきます。

図面はあくまで計画書です。実際の心地よさは、現場のリアルな空気感の中でしか作れません。
インテリアコーディネーターとして、何度も図面を描いてきて感じるのは、「設計は図面で考え、空間は身体で確かめる」ということです。数字と感覚、両方が揃ってはじめて、人が心地よく過ごせるお店ができます。
Week 2|曲線という挑戦。ボード工事と空間のうねり
直線ではなく、曲線を選んだ理由
今回の西洞院三条スクール様の設計で、ひとつの挑戦がありました。壁の一部を「曲面」で仕上げることです。
直線の壁は比較的シンプルですが、曲線の壁はボードを少しずつ曲げながら貼っていく、職人の技術が問われる工程です。

曲面を取り入れた理由はシンプルで、人の動線に沿った優しいラインを作りたかったからです。直角の角は、どこかに「切る」印象を与えます。曲面は「つなぐ」。空間と空間を断絶させずに、流れをもって繋いでいく。
ボードが貼り終わったら、次の職人へのバトン渡し
ボードが大体貼り終えると、次は仕上げ関係の職人さんとの打ち合わせです。

この打ち合わせが、実はとても重要です。
ボードを貼った職人と、クロスを貼る職人は違う人です。引き継ぐとき、「ここの継ぎ目はこう処理しました」「この部分は少し段差があるので確認を」という情報を、正確に次の人に伝えることが、最終的な仕上がりの品質を左右します。職人同士のバトン渡しが、現場の連携力です。
Week 2-3|クロス工事の「前」に何が起きているか
「壁紙を貼るだけ」は大きな誤解
骨組みができ、ボードが貼られると、いよいよ仕上げ工事の準備に入ります。
「壁紙って、ボードの上に糊でピタッと貼るだけでしょ?」と思われがちですが、それは大きな勘違いです。

ボードの継ぎ目やビスの穴を「パテ」と呼ばれる下地材で何度も塗っては削り、完璧にツルツルの平面を作ってから、ようやくクロスを貼ります。このパテ処理を丁寧にやるかどうかが、仕上がりの「差」になります。

「早く貼りたい」という焦りが、後から必ず「クロスの継ぎ目が目立つ」「微妙に凸凹している」という問題を生みます。地味ですが、パテ処理は省略できない工程です。
Week 3|壁紙が貼られ、空間が呼吸をはじめた瞬間
天井から貼るのが、プロの鉄則
クロス(壁紙)工事がいよいよ始まりました。今回は2名の職人さんに入ってもらいました。

写真は、機械でクロスに糊を付けている様子です。クロスを機械に通すと均一に糊が付いて、貼る準備が整います。
ここで、プロの鉄則があります。「天井から先に貼る」ことです。

ずっと上を向いたままの作業は、職人の首や腰に相当な負担がかかります。でも、天井を先に貼らないと、糊が壁に落ちて汚れてしまう。効率より品質を優先する、絶対に譲れない手順です。
2人で入ってもらったことで、天井のクロス貼りはスムーズに進みました。一人が貼り、もう一人が位置を合わせてサポートする。息のあったコンビプレーを見ているのが、こういう現場の楽しみでもあります。
家具と植栽が入ると、空間が呼吸をはじめる

クロスが貼り終わると、空間が一変します。今まで「工事現場」だった場所が、急に「どこかのお店」になる瞬間。

建具枠はナチュラルな色合いを選びました。クロスの色と少し差をつけることで、全体の調和が生まれます。単色でそろえると「のっぺり」した印象になる。微妙な色のグラデーションが、空間に奥行きをもたらします。

空間のアクセントとして、2つの空間を繋ぐFIX窓を設けました。「開放的な窓を作ってあげることで、2つの空間が遮断されることなく繋がりを保てる」——これは、扉一枚で空間を完全に分断するのとは、まったく違う体験を生みます。
Week 3-4|看板に魔法をかける。15mmの「影」が生む高級感
ステンレス切り文字を「壁から浮かせる」ことの意味
内装が仕上がってくると同時に、お店の「顔」である看板工事も進みます。
今回の受付スペースには、シャープなステンレス(SUS)の切り文字看板を採用しました。

ここで、現場ならではのちょっとした「魔法」を使っています。
文字を壁にベタッと貼り付けるのではなく、あえて「15mm」だけ壁から浮かせて設置しています。これだけのことで、照明の当たり具合によって壁に美しい「影」が落ちます。朝・昼・夕方と時間帯によって影の長さや濃さが変わり、空間に豊かな立体感と高級感が生まれるんです。
たった15mmの差が、看板の印象をここまで変える。こういう「ほんの少しの工夫」を知っているか知っていないかで、お店の顔がまったく違うものになります。
外部看板にはカルプ文字を選んだ理由

外部の看板には「カルプ文字」を採用しました。
壁がゆるやかな曲面になっていたため、ステンレスの板材では対応できなかったんです。カルプ文字は素材が柔軟で曲面にもフィットできる上に、表面にステンレスのヘアライン風シートを貼ることで重厚感を出せます。



ステンレスよりも厚みを持たせられるのも、カルプ文字の魅力です。同じ「ステンレス風」に見えても、厚みが出ることで存在感がまったく違う。道行く人に「おっ」と思わせる看板は、立地以外の集客力になります。
Week 4|防水・建具・家具搬入。完成に向けた最終仕上げ
2階屋外の防水工事——見えない安全への投資
内装と並行して、2階では屋外の防水工事も進んでいました。塗膜を何層も重ねていく、地味ながらも絶対に省略できない工程です。


何度も塗膜を重ねることで、最終的にグレーの美しい仕上がりになります。この上を生徒さんたちが何年も歩き続けても、十分な耐久性を保てるように。お客さんには絶対に見えない部分ですが、これがお店を守る「命綱」です。
建具が入ると、空間が「顔」を持つ
メインになる建具が取り付けられました。


建具が入ると、空間がぐっと締まります。「ここがドア」「ここが壁」という区別が明確になって、人が実際にどう動くかがイメージできるようになる。建具工事は、空間に「動線」を与える工程です。
建具枠と柱の間にはシーリング(コーキング剤)を打って、隙間をしっかり埋めています。

こういう細部の「埋め」が、完成後の見た目の美しさに直結します。仕上げ工事の質は、「気が利くかどうか」でほぼ決まる、とよく言われます。
家具が入ると、空間が別の顔を見せる
ガラスが入り、建具が塗装され、家具が搬入されると——空間が一気に「お店らしさ」を帯びてきます。


「家具も搬入されて雰囲気が出てきたことで、通行する人たちもジロジロと中のほうを見ていかれます」——と、当時のメモに残っています。これが、出店立地の「視認性」の話です。何もない工事現場より、完成しつつあるお店のほうが、人の目を引く。完成前から集客の予兆が生まれています。
完成|美装工事が終わった日、空間が澄み渡った
工事の最後は「クリーニング」から始まる
すべての工程が終わり、最後に「美装工事(クリーニング)」が入ります。

工事中に出たホコリや汚れを隅々まで拭き上げ、床にワックスをかける。これだけで、空間の空気が変わります。

足場が外れ、真新しい空間に明かりが灯った瞬間——この光景は、何度経験してもいいなと思います。「美しい」という感覚が、じわっと来る。
施工事例はこちら:京都共栄学園高等学校 通信制課程サポートセンター京都校 様
まとめ|ピカピカの完成日は、お店のスタートライン
「余白」を残してお引き渡しすることが、私たちのこだわり
約1ヶ月の工事密着記録、いかがでしたか。
私は、ピカピカの完成日を「お店の完成」だとは思っていません。
無垢の白木の建具は、時間が経てば日に焼けて深い色へと変化します。生徒さんたちが通い、笑い声が響き、少しずつ床に愛着のある傷がつく。そうやってお店は育っていきます。
だからこそ、私たちは作り込みすぎず、オーナー様やお客様が色付けしていける「余白」を残してお引き渡しするようにしています。工事は「箱」を作る仕事ですが、その「箱」に魂を吹き込むのは、そこで過ごす人たちです。
テナント内装工事の費用と期間の目安
「実際にいくらかかるの?」「工期はどのくらい?」というご質問を多くいただきます。物件の規模・居抜きかスケルトンか・業態によって大きく変わりますが、西洞院三条スクール様のような一般的なテナントリフォームの場合、おおよそ以下が目安になります。
| 工程 | 工期目安 | 費用目安(10〜20坪の場合) |
|---|---|---|
| 左官工事(床下地) | 2〜3日 | 5〜15万円程度 |
| 軽天(LGS)工事 | 3〜5日 | 10〜25万円程度 |
| ボード工事 | 3〜5日 | 10〜20万円程度 |
| パテ処理・クロス工事 | 3〜5日 | 15〜40万円程度 |
| 看板工事 | 2〜3日 | 10〜50万円程度(素材・サイズにより大きく変動) |
| 建具・防水工事 | 3〜5日 | 10〜30万円程度 |
| 美装工事(クリーニング) | 1〜2日 | 3〜10万円程度 |
| 合計目安 | 約4〜6週間 | 100〜300万円程度 ※物件状況・業態・仕上げグレードにより大きく変動します |
「もう少し詳しい坪単価の話が知りたい」という方は、店舗内装の費用・坪単価【京都の施工300件から出した実数】もあわせてご覧ください。
この1ヶ月で起きたことを整理すると
西洞院三条スクール様 工事工程まとめ
Week 1:左官工事
床の凹みをモルタルで埋め、下地を平滑に整える。ミリ単位の仕事がすべての基礎になる。
Week 1-2:軽天(LGS)工事
壁の骨組みを作る。数字と身体感覚の両方で位置を確認しながら微調整する。
Week 2:ボード工事
曲線の壁にボードを曲げながら貼る。貼り終えたら次の職人へ丁寧にバトンを渡す。
Week 2-3:パテ処理・クロス工事
継ぎ目と穴をパテで平滑化。天井→壁の順でクロスを貼る。2人体制でスムーズに進行。
Week 3-4:看板・建具・防水工事
15mm浮かし看板で影を演出。カルプ文字で曲面対応。屋外防水で安全を守る。
Week 4-完成:家具搬入・美装工事
家具と植栽で空間に命が宿る。美装工事で空気が澄み渡り、お引き渡し。
「自分もこんな風に、想いを込めたお店を作りたい」「でも、うちの予算でどんなことができるのか不安……」
そう思っていただいた方、ぜひ一度相談してください。何もないスケルトンの状態から、お客様の笑顔があふれる空間になるまで。現場のリアルを知り尽くした私たちが、汗をかきながら伴走します。
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