

先日ふと寄り道をして、古い商店街を歩いたんです。
シャッターが閉まったままの店舗が並ぶなかに、一軒だけ工事中の場所があって。外から見えるのは、作業着姿の職人さんと、床に這いつくばって何かを塗っている人の後ろ姿だけ。地味で、静かな作業でした。
でも私には、その光景がとても大切なものに見えました。
お店を開こうとしている誰かの夢が、今まさにその床の下に埋め込まれているんだな、と。
今回は、東山区でフレンチレストランの工事を担当したときのことを書きます。テーマは「防水工事」。内装でも設備でもなく、床の下に隠れる地味な工事の話です。でも、これを知っているかどうかで、テナント工事の結果が大きく変わります。居抜き物件を探している方や、飲食店の開業を考えている方にぜひ読んでもらいたい内容です。
📋 この記事でわかること
- 飲食店のテナント工事で「防水」が最重要な理由
- 居抜き物件を借りる前に確認すべき水回りのポイント
- 「ゴムアス系防水」とは何か、なぜそれを選ぶのか
- 保護モルタルを急がない理由と、現場のこだわりの話
- 地味な基礎工事にこだわれるかどうかがお店の寿命を決める理由
目次
飲食店の工事で、なぜ「防水」が一番怖いのか
デザインより先に、床の下のことを考えてほしい
飲食店の開業を目指している方が、コトスタイルに相談に来られるとき、最初の話題はほぼ必ず「内装のデザイン」や「厨房の設備」です。当然だと思います。お客さんが見るのはそこですし、そこが一番ワクワクする話ですから。
でも私は、ある段階で必ずこの話をするようにしています。
「床の下の防水、ちゃんと考えましょう」と。
飲食店の厨房は、毎日大量の水を使います。床を水で流して清掃することも多い。もし防水処理が甘く、少しずつ水が床下に浸透してしまったら——階下のテナントや住居に水がポタポタと垂れ、高額な機材を水浸しにしてしまうかもしれません。
そうなれば、損害賠償だけでなく、原因を特定して改修工事が終わるまで自分のお店も営業ストップです。せっかく作り上げたお店が、たった一つの水漏れで立ち行かなくなる。これは決して大げさな話ではなくて、古い建物が多い京都のテナントでは、実際に起こりやすいことです。
内装デザインが「顔」なら、防水工事は「命綱」
内装デザインはお店の「顔」です。お客さんの第一印象を作る、大切な要素です。
でも、防水などのインフラ工事はお店の「命綱」です。見えないけれど、なければお店は長続きしない。
デザインは後からでも変えられますが、床下の防水は後から直そうとすると、床材をすべて剥がしてやり直さなければなりません。工事費用も、営業を止める期間も、想像以上にかかります。だからこそ、最初の工事の段階で徹底的にやる必要があります。
居抜き物件を借りる前に、必ず確認してほしいこと
「居抜きだから工事が楽」は、半分本当で半分危ない
最近、居抜き物件での開業を検討されている方がとても増えています。確かに、内装や設備がそのまま使える居抜き物件は、初期費用を大幅に抑えられる魅力があります。
でも、居抜きだからといって「工事が楽」だとは限りません。むしろ、前のテナントが水回りをどう扱っていたかを知らないまま使い始めることのほうが、リスクが高い場合があります。
私が居抜き物件の内覧に同行するとき、必ず確認することがあります。
居抜き物件の内覧時に確認したい水回りのポイント
- 厨房の床下に排水溝はあるか。その状態はどうか
- シンク・食洗機・製氷機の排水配管が詰まっていないか
- 以前の店舗で水漏れトラブルがなかったか(管理会社や大家さんに確認)
- 床材の下の防水層が生きているかどうか(専門家に判断を仰ぐ)
- グリストラップ(油分を分離する装置)の設置有無と状態
これらは、見た目だけではわかりません。一般の方が内覧で判断するのは難しい部分もあります。だからこそ、内覧の段階から設計・施工の専門家を連れていくことが、後悔しない物件選びにつながります。
前のテナントの「見えないツケ」を引き継がないために
居抜き物件を選ぶとき、「前の店の設備がそのまま使える」という点に目が行きがちです。でも同時に、「前の店の杜撰な工事の跡もそのまま引き継いでしまう」リスクがあることを、頭の片隅に置いておいてください。
宅建士として、これまでたくさんの物件の契約に関わってきましたが、入居後に発覚する水回りのトラブルは本当に多い。特に、長く使われてきた物件ほど、配管の老朽化や防水層の劣化が進んでいることがあります。
居抜きのメリットを活かしつつ、見えない部分のリスクをちゃんと見極める。そのための専門家の目が、契約前に必要です。
東山区フレンチレストランの現場から——ゴムアス系防水の話
現場で行った工事の内容
ここからは、実際の現場の話をします。
東山区でフレンチレストランの内装工事を担当したときのことです。まず防水下地となるモルタルを打ち、十分に乾燥させたあと「ゴムアス系防水」という処理を行いました。

写真は、ゴムアス系防水を刷毛で丁寧に塗った様子です。地味に見えるかもしれませんが、この作業がお店の寿命を大きく左右します。
「硬くなるのに、伸びる」という不思議な材料
ゴムアス系防水というのは、塗料と硬化剤を混ぜ合わせて作る防水材で、刷毛で塗っていくタイプです。
この材料の面白いところは、乾燥すると最初はカチカチに硬くなるのに、100%完全に乾ききると、今度はゴムのような伸縮性が生まれることです。硬いのに、伸びる。少し矛盾しているようですが、これが建物のわずかな揺れや沈み込みにも追従して水を通さない、頼もしい材料になります。
地震が多い日本の建物では、少しずつ沈んだり歪んだりすることがあります。そのとき、硬いだけの防水層だとひび割れてしまう。でもゴムのように伸びる素材なら、建物の動きに合わせてくれます。
この防水層をしっかり施すか施さないかで、万が一水が漏れそうになったときの防波堤としての強度が、天と地ほど変わります。
保護モルタルを急がない。丸一日を乾燥に使う理由
「乾燥させる」という判断も、仕事のうち
防水材を塗り終えたら、すぐに次の工程に進むわけではありません。
この現場では、防水材を塗った翌日が日曜日で現場はお休みでした。私たちはこの丸一日を、あえて「十分な乾燥時間」として使いました。焦って次の工程に進むのではなく、防水材が100%の性能を発揮できるまでじっくり待つ。

写真は、保護モルタルを塗る前の状態です。ゴムアス系防水が塗られた床面が見えます。ここから保護モルタルで「フタ」をすることで、防水層が完成します。
むき出しの防水塗膜は、意外とデリケート
せっかく丁寧に塗ったゴムアス系防水も、むき出しのままだと上に物を落としたり人が歩いたりしたときの衝撃で、簡単に切れたり破れたりしてしまいます。
だからこそ、完全に乾燥したのを確認したあと、間髪入れずにモルタルで「フタ」をして守ってあげる必要があります。
防水工事の正しい手順
- 防水下地モルタルを打つ(床面を平滑に整える)
- 十分に乾燥させる(ここを急ぐと防水の効果が落ちる)
- ゴムアス系防水材を刷毛で塗る
- 100%乾燥するまで待つ(丸一日以上が目安)
- 防水保護モルタルを塗る(防水塗膜を物理的な衝撃から守る)
- 床材の施工へ進む
このスピード感と手順の正確さが、完璧な防水空間を生み出します。一つでも省いたり急いだりすると、どこかで必ずしわ寄せが来ます。
地味な基礎工事に神経質になれるかが、お店の寿命を決める
完成すれば、誰も見ない部分にこそ誇りを持つ
「防水材を塗って、乾かして、モルタルで保護する」。文章にしてしまえばたった一行のことです。床材が張られてしまえば、オーナーの方の目にも触れることは一生ありません。
正直に言うと、めちゃくちゃ地味な工事です。
でも、この見えない地味な作業の一つひとつに対して、どれだけ「神経質」になれるか。それが、数年後・数十年後のお店の寿命を決定づけると私は思っています。
小学生のころ、野球でエラーをしてチームメイトに迷惑をかけたことがあります。あのときの「やってしまった」という感覚が、今でも仕事に対する責任感の原点になっています。見えないところでの妥協が、後で誰かを苦しめる。そのことを、あの経験から学びました。
現場の「ちょっとくらい」が積み重なる怖さ
「ちょっとくらい乾いていなくても大丈夫だろう」「保護モルタルは後回しでいいや」——こういう現場での小さな妥協が、後々オーナーの方を苦しめる大きなトラブルにつながります。
テナント工事を依頼する会社を選ぶとき、「見えない部分にこだわれる会社かどうか」を確認することが大切です。完成した内装の美しさだけでなく、工事中の現場管理がしっかりしているかどうか。そこを見てほしいと思っています。
コトスタイルでは、こういった地味で重要な工事の工程を、オーナーの方にきちんとお伝えするようにしています。「なんでそんな地味なことにこだわるの?」と聞かれることもありますが、それが理由です。
まとめ|見えない部分の不安は、プロと一緒に解消しましょう
今回お伝えしたことを整理します。
- 飲食店のテナント工事で防水は「命綱」。後から直すには大きなコストがかかる
- 居抜き物件は便利だが、前のテナントの水回りの状態を確認しないまま使うのは危険
- ゴムアス系防水は「硬くなりながら伸びる」材料で、建物の動きに追従して水を防ぐ
- 防水材は100%乾燥させてから保護モルタルを打つ。この手順を省略すると意味がなくなる
- 地味な基礎工事にこだわれる会社かどうかが、テナント工事の会社選びの重要なポイント
お店づくりにおいて、デザインの話は誰とでも楽しくできます。でも「防水」「電気容量」「排気ダクトのルート」といった見えないインフラの話は、現場を知り尽くした人間でないと正確に答えられません。
気になるテナント物件があるなら、あるいは「この古い物件で本当に飲食店ができるのかな」と不安に思っているなら、契約のハンコを押す前にぜひ一度ご相談ください。現場の視点で一緒に物件を見て、見えない設備工事にいくらかかりそうかも含めてチェックします。
一生に一度の大切なお店づくりです。見えない不安はプロに預けて、「どんなお客様に喜んでもらいたいか」というワクワクする構想に全力で集中してください。
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