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京都で長く続く店の空気と温度のデザイン術を解説

【第5回・最終回】京都で長く続く店は五感が心地よい。目に見えない「空気」と「温度」のデザイン術

京都で長く続く店の空気と温度のデザイン術を解説

週末に田舎へ行くのが好きで、ドライブがてら知らない街に入ることがよくあります。先日も、気になったのれんを見つけてふらっと入った小料理屋が忘れられなくて。カウンター8席だけの、本当に小さなお店でした。内装は特別豪華でも何でもない。でも座った瞬間から、妙に落ち着く。

料理が出てくるまでの間、ぼんやりと店内を眺めていたんですが、あることに気づいたんです。音楽がうっすら流れているのに、どこから聞こえているかわからない。空気がふわっと動いているのに、風を感じない。温度が「ちょうどいい」としか言いようがない。

帰り際にふと、「ここ、また来たいな」と思っていました。

結論から言います。どれほど美しい内装でも、「見えない空気感」に不快な要素があれば、お客様はリピーターになってくれません。京都で長く続くお店は、目に見えない「温度・空気・音」を、内装と同じ精度で設計しています。

コトスタイルはこれまで京都・関西エリアで300件以上の店舗設計・施工に関わってきました。連載最終回となる今回は、その経験から学んだ「見えないもののデザイン術」をお伝えします。

📋 この記事でわかること

  • 繁盛店ほど店内が暑くなりやすい理由と、空調設計の正しい考え方
  • 「入り口のすきま風」が生まれる本当の原因と、その対策
  • 厨房の匂いが客席に漏れない「空気の流れ」の作り方
  • BGMが「音のパーティション」として機能する仕組み
  • どの席でも均質な音に包まれる、プロの音響設計の手法
  • 連載5回を通じた「五感すべてを設計する」という思想のまとめ

なぜ「繁盛しているお店」ほど暑苦しくなるのか

お客様自身が発する「熱」を、設計に織り込んでいるか

夏は蒸し暑く、冬は底冷えのする京都。この特有の気候の中で快適な店内環境をつくるには、エアコンの性能に頼るだけでは不十分です。

お店の温度設計を考える際、多くの人が見落としがちな事実があります。それは、「繁盛しているお店ほど、店内は熱くなりやすい」ということです。

人間は、ただ座って呼吸をしているだけでも代謝によって熱を発しています。その熱量は、大人1人あたりおよそ「100Wの白熱電球」と同じくらいだと言われています。もし店内に30人のお客様とスタッフがいれば、それだけで3,000W分の熱源が店内に存在することになります。

お店が満席になり、活気に満ちれば満ちるほど、店内はヒートアップしていく。空調の容量を計算する際には、満席時のお客様とスタッフの発熱量をしっかりと見込んでおくことが必須です。これを見誤ると、夏場に「エアコンを最強にしているのに全然冷えない」という事態に陥ります。

厨房機器が吐き出す「見えない熱」の落とし穴

店内の温度を狂わせる「熱源」は人間だけではありません。店舗を運営するためのさまざまな機器も、大量の熱を室内に吐き出しています。

  • 製氷機・大型冷蔵庫:庫内を冷やした分だけ、その「熱」を機械の外(店内)に捨てている
  • パソコン・レジ周辺機器:長時間稼働することで熱を発し続ける
  • オーブン・コンロ:厨房内で火を扱う機器は強烈な熱源

空調の効きが悪くなると、お客様が不快な思いをするだけではありません。暑い中で動き回るスタッフの疲労も蓄積し、サービスの質まで低下してしまいます。

京都で長く続くお店は、こうした機器からの放熱を最初からデザインの計算に入れています。たとえば、熱を出しやすい製氷機を空冷式ではなく水冷式に切り替えたり、厨房と客席の間の熱の移動を物理的に遮断したりする工夫を施しています。

コトスタイルの現場から

空調設備の選定は、業者任せにすると「床面積÷標準値」で機械的に決められてしまうことがあります。設計の初期段階から「満席時の人数」「厨房機器の種類と配置」「断熱性能」を合わせて検討することが、長く快適に使える空調プランにつながります。

居心地を奪う「すきま風」と「空気の淀み」の正体

入り口付近の席が「ハズレ席」になってしまう理由

冬場に飲食店を訪れた際、入り口近くの席に案内されて、ドアが開くたびに冷たい風が吹き込んできて凍えた経験はないでしょうか。あるいは夏場に、生ぬるい外の空気が一気に流れ込んできて不快になったことはありませんか。

実は、この「ドアが開くたびに外気がドバッと流れ込んでくる現象」は、ドアの開け閉めそのものよりも、店内の「換気システム(排気と給気のバランス)」の崩れが引き起こしているケースがほとんどです。

飲食店では、調理中の煙や匂い、熱を外に逃がすために、厨房に強力な換気扇(排気設備)を設置します。換気扇が店内の空気を外にガンガン排出している状態のとき、店内の気圧が外よりも下がる「負圧(ふあつ)」という状態になります。

店内が負圧になっていると、扉が開いた瞬間に外の空気が気圧差によって一気に店内に吸い込まれてしまいます。これが、入り口付近のお客様を直撃する強烈な「すきま風」の正体です。

空気をデザインする「見えない気流」の作り方

この不快な現象を防ぐためには、外に空気を出す「排気」と同じ量だけ、新鮮な外の空気を店内に入れる「給気」の仕組みを整える必要があります。

しかし、ただ壁に給気口の穴を開ければ良いというものではありません。一箇所から大量の外気を取り込むと、そこに座っているお客様が風を直接浴びてしまいます。

京都で長く愛されるお店は、この「空気の動き(気流)」を徹底的にデザインしています。

  • 分散して穏やかに空気を取り込む:外から取り込んだ新鮮な空気を天井裏に一度入れ、複数の給気口から分散させながら穏やかに降らせる。局所的な温度変化や風の直撃を防ぐ
  • 匂いのコントロール:空気が「客席から厨房へ」一方向に流れる気流を作る。厨房の油の匂いや煙が客席に逆流するのを防ぎ、お客様の服に嫌な匂いがつくのを防ぐ
  • 厨房への新鮮な空気の供給:コンロなど火を扱う場所の近くに、燃焼を助けるための新鮮な空気を的確に供給する

目に見えない空気が、いつも澱みなく穏やかに循環していること。それこそが、長時間滞在しても疲れない「極上の居心地」の基盤です。

コトスタイルの現場から

京都には、古い町家を改装した素晴らしいお店がたくさんあります。ただ、古い木造建築はもともと「夏を涼しく過ごす」ための風通しの良い造りになっていることが多く、断熱性や気密性が現代の建物に比べて劣ります。魅力的な古い建物を活用するからこそ、最新の空調設備と緻密な気流の計算が、お店の寿命とお客様の満足度を決定的に左右します。

「無音の気まずさ」を消し去る、音響デザインの魔法

BGMは音楽を「聴かせる」ためのものではない

お店の空間を構成する重要な要素として、目に見えない「音(音楽)」の存在があります。

しかし、音楽をメインで楽しむライブハウスやクラブでない限り、お客様は音楽を「聴く」ために来店しているわけではありません。では、なぜお店にはBGMが必要なのでしょうか。

最大の理由は、「人が持たない『シーン』とした無音の空気を避けるため」です。

他のお客様の食器の当たる音や、ヒソヒソとした話し声、スタッフの足音だけが響く静まり返った店内を想像してみてください。無音の空間は、お客様に「自分の話し声が周囲に丸聞こえになっているのではないか」という強い緊張感と気まずさを与えてしまいます。

BGMは、気まずい静寂をマスキングし、お客様同士のパーソナルな会話を守るための「音のパーティション(間仕切り)」として機能しているのです。

会話を邪魔しない「均質な音の空間」の作り方

お店のコンセプトにぴったりのBGMを選んだとしても、音の鳴らし方を間違えてしまうと居心地は一気に悪くなります。

よくある失敗が、大きなスピーカーをフロアの四隅に据え置き、大きな音量で音楽を流してしまうケースです。スピーカーの近くの席に座ったお客様はうるさくて会話ができず、遠くの席のお客様にはモゴモゴとした不鮮明な音しか聞こえません。

京都で長く続くお店が実践しているプロの音響デザインは、「小型のスピーカーを多めに点在させ、音量を絞る」という手法です。

天井や壁の各所に小さなスピーカーをまんべんなく配置し、どの席に座っても均一なボリュームで、シャワーのように音が降り注ぐように設計する。音量を絞っても空間全体が心地よい音に包まれるため、会話の邪魔にならず、かといって静かすぎることもない、絶妙な音環境をつくり出すことができます。

お店のストーリーを伝える、BGMのジャンル選び

音響設備を整えたら、次はお店のコンセプトに合わせた音楽の選定です。内装デザインとBGMがちぐはぐだと、お客様は無意識の違和感を覚えます。

空間のコンセプト 合うBGMジャンル 生まれる空気感
シックなバー・落ち着いたカフェ ジャズ・ボサノバ 上質な大人の時間
レトロな大衆酒場 昭和歌謡・演歌 懐かしい高揚感・タイムスリップ感
クラシックな洋食店 クラシック音楽 優雅でゆったりした時間
カジュアルなカフェ・ランチ インディーポップ・アコースティック 気取らない日常の心地よさ
和食・京料理 和楽器・自然環境音 静けさの中にある豊かさ

視覚的なデザインと聴覚的なデザインのベクトルをしっかりと合わせることで、お店が伝えたいストーリーはより深く、お客様の心に刻まれていきます。

目に見えないストレスをなくす、5つのチェックリスト

ここまで、「温度」「空気」「音」という目に見えない要素の重要性についてお伝えしてきました。お店の開業やリニューアルに向けて、内装やメニューの検討が進んでいるオーナー様は、以下の5つのポイントについて今一度チェックしてみてください。

開業前・リニューアル前の「見えない空気感」チェックリスト

  • 満席時の「人間の発熱量」を考慮して空調の能力を選定しているか
    (閑散時と満席時で温度差が出すぎないよう、きめ細かな調整ができるシステムが理想)
  • 厨房機器や冷蔵庫からの「排熱」の逃げ道を確保しているか
    (熱を出しやすい機器を客席の近くに配置していないか確認する)
  • ☑ ドアを開けたときに「すきま風」が入り込まないよう、給気と排気のバランスがとれているか
    (強力な換気扇をつけるなら、同じだけの空気を取り込む給気口の確保が必須)
  • ☑ 厨房の匂いや煙が、客席側に流れていかない気流の設計になっているか
    (空気は常に「客席から厨房へ」流れるのが正解)
  • ☑ BGMは特定の席だけがうるさくならないよう、均等に聞こえる配置になっているか
    (お客様の会話の邪魔にならず、かつ無音の気まずさを消す音量調整が必要)

この5つのすべてに「YES」と言えるお店は、視覚的な美しさと見えない快適さが揃った、本当に長く愛される空間になっていきます。

ひとつひとつは地味に見えます。でも、これらが揃っていないお店は、お客様が「なんとなく落ち着かない」「疲れる」という感覚を持ち、自然と足が遠のいていく。逆に、すべてが整っているお店では、お客様は理由もわからないまま「また来たい」と思っている。そういうものだと私は思っています。

よくある質問(FAQ)

Q. エアコンの容量はどうやって決めればいいですか?

床面積だけで機械的に計算するのではなく、「満席時の人数」「厨房機器の種類と配置」「断熱性能」の3つを合わせて検討することが重要です。特に満席時の人間の発熱量は見落とされやすいポイントです。設計の初期段階から空調計画を含めて一緒に考えることをお勧めします。

Q. 入り口付近のすきま風を防ぐ一番シンプルな方法はありますか?

最も手軽な対策は、入り口に「エアカーテン(風除け装置)」を設置することです。ただし、根本的な解決には給気と排気のバランスを整えることが必要です。厨房の換気扇の排気量に見合った給気口を、客席から離れた位置に設けることで、入り口からのすきま風を大幅に改善できます。

Q. 音楽のボリュームはどのくらいが正解ですか?

一般的な飲食店では、通常の会話(約60デシベル)より少し小さい45〜55デシベル程度が目安です。ただし、数値より大切なのは「隣の席の会話が聞き取れない程度に音が満ちているか」という感覚的な確認です。スピーカーを分散させた上で、各スピーカーの音量を絞り、複数席で確認しながら調整することをお勧めします。

Q. 古い町家を改装してお店を開きたいのですが、空調面で注意することはありますか?

古い木造建築は断熱性・気密性が現代の建物に比べて低いため、空調の効きが悪くなりやすい傾向があります。内窓の設置や断熱材の追加など、建物の性能を補う工事と合わせて空調を計画することが重要です。また、天井が高い町家では温かい空気が上に溜まりやすいため、シーリングファンで空気を攪拌する工夫も有効です。

まとめ|五感すべてをデザインすることが、長く続く店をつくる

全5回にわたってお届けしてきました「京都で長く続く店をつくる」連載、今回が最終回です。

  • 第1回:余白のある空間づくり——お客様が自分のストーリーを紡げる懐の深さ
  • 第2回:素材選びの法則——時を重ねるごとに美しくなる本物とフェイクの使い分け
  • 第3回:光と影のコントロール術——「どこを暗くするか」から始まる照明設計
  • 第4回:視線と距離感の設計——見えない境界線がパーソナルスペースをつくる
  • 第5回:空気と温度のデザイン術——五感すべてを心地よく満たす見えない設計

これらはすべて、ひとつの方向を向いています。「お客様が無意識のうちに心地よいと感じられる空間を、徹底的に設計し抜くこと」です。

見た目のおしゃれさだけを追い求めたデザインは、写真映えはするかもしれません。でも、そこに集うお客様の五感の心地よさが伴っていなければ、お店はすぐに飽きられていく。

お客様がドアを開けた瞬間に感じる空気の優しさ。座ったときの視線の抜け感。料理を最高に美味しく見せる照明の角度。会話を優しく包み込む音響と、長時間の滞在でも疲れない温度管理。

こうした「目に見えないもの」のすべてを緻密に設計すること。それが、京都という競争の激しい街で何十年とお客様に愛され続けるお店をつくる、私たちの揺るぎない信念です。

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店舗の換気・空調設備の設置基準については京都市の保健所窓口でもご確認いただけます(飲食店の換気設備基準あり)。