

ビジネスが失敗に陥る盲点とは何か。いま考えておきたい視座。
僕たちコトスタイルは、店舗デザインの仕事を通じて、お客様の想いが詰まった場をカタチにしています。最近は、空き家をテナントとして活用する取り組みも少しずつ進めていて、街の景色を少しでも良くできたら…と模索しているところです。
そんななかで、ふとした場面で「自分たちのビジネスの成り立ち方も変えていかないといけない」と考えることが増えてきました。今回読んだのは『ワイドレンズ』という本。「広く見る」という視点の大切さがテーマの一冊でした。
前回のジョブ理論では「顧客体験価値」にフォーカスして考えていましたが、今回はそこからさらに一歩進んで、その価値をどう成り立たせていくか、支える環境をどう築くかを考える視座が加わった感覚です。
ビジネスが失敗に陥る盲点とは
冒頭に出てくるミシュランのパックスタイヤの事例がとても印象的でした。事故を防ぐ画期的な製品。開発段階では何も問題なく、誰もが「これは売れる」と思っていた。でも、実際には修理する環境が整っていなかったことで、市場には受け入れられなかった。
この話から学べるのは、どれだけ素晴らしい製品やサービスがあっても、それを支える環境=エコシステムが整っていなければビジネスは成立しないという現実です。これは、僕たちの仕事にも通じるところがたくさんあります。
パイプラインからエコシステムへ
以前のビジネスは、材料を仕入れて、ものを作って、販売するという直線的なパイプラインモデルが基本でした。でも、今はそれではもう通用しない。ジョブ理論でもあったように、顧客体験価値はどんどん複雑化している。解決すべき「ジョブ」は一社だけでまかなえない時代になっている。
本書では、パイプラインからエコシステムへという流れがとてもわかりやすく描かれていました。エコシステムとは、顧客体験価値を一社だけで解決しようとするのではなく、さまざまな企業やプレイヤーと協力して価値を提供する関係性。
たとえばAppleは、iPhoneというハードだけではなく、アプリストアや開発者コミュニティなどを巻き込んだ巨大なエコシステムを築いています。
コトスタイルの現場に置き換えてみると
この話をコトスタイルの仕事に置き換えて考えてみました。たとえば、出店者さんが僕たちに相談してくださるとき、「家族も安心して続けられる店にしたい」とか、「この街にずっと根づけるお店を持ちたい」という声の方が多いんです。
「たくさんの人に知ってもらうにはどうしたらいいか」とか、
「開店してからしばらくどうやって続けていこうか」まで考えている方がほとんど。
そこまで視野に入れたお手伝いができてこそ、ほんとうに価値があるんじゃないかと感じています。
それは空き家→テナント活用事業でも同じことが言えます。空き家をテナントに変えるだけでは終わりではない。そこに入ってくれるテナントさんが「継続的に事業を続けられる環境」を築くところまで、関係するすべてのプレイヤーと協力してエコシステムを作っていく必要がある。
エコシステム構築のリスクと成功の鍵
もちろんエコシステムを作るにはリスクもある。
本書で紹介されていた
①コ―イノベーションリスク
②アダプションチェーンリスク
この2つは特に意識しておきたいと感じました。
コ―イノベーションリスクは、たとえば自分たちだけが先に新しいサービスや仕組みを作り込んでしまって、まわりのパートナーがついてこられなかった場合、全体として価値が届けられなくなるリスク。
アダプションチェーンリスクは、エコシステムの中のいろんなプレイヤーの「つながり」があって初めて成り立つもの。その中のどこかひとつでも「受け入れが進まない」「準備が整わない」部分があると、全体の流れが止まってしまう可能性がある。
だからこそ、僕たちもエコシステム全体を見渡す視点を、これからしっかり持って取り組んでいきたいなと思っています。
リーダーシップの新しい形
もう一つ響いたのがリーダーシップの考え方。エコシステムは「制覇するもの」ではない。すべてのプレイヤーがそれぞれの立場で価値を発揮する場であるべき。
大学院の講義で紹介された動画(こちら)でもありましたが、フォロワーがいてはじめてリーダーが成立する。そこに自然な信頼関係が生まれることが大切なんだと、すごく納得感がありました。これは、僕たちのプラットフォーム事業でもしっかり意識して取り入れていきたい考え方だなと感じました。
MVEで小さく始める
そして最後にもう一つ大事なのがMVE(Minimum Viable Ecosystem)。すべてを完璧に揃えようとせず、小さく始めて徐々に広げていく。これは僕たちの取り組みにもまさに大切な考え方だなと感じました。
最初から完璧を目指すと動けなくなる。アジャイルに、仲間と対話しながら進めていくことが、今の時代には求められているんだとあらためて思います。
最後に
今回『ワイドレンズ』から学んだのは、「広い視座でビジネスを見ていくこと」の大切さでした。僕たちコトスタイルの店舗デザイン事業、空き家テナント活用事業、プラットフォーム事業、どの取り組みにも、こうしたエコシステム的な考え方を少しずつ取り入れていくことが、これからますます求められる場面が増えてきたなと実感しています。
顧客体験価値を軸に、関わる仲間たちとどう価値を届けていけるか。これからもこの視点を大切に、柔軟に、そして楽しみながら進んでいきたいと思います。