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【前編|3月商戦の読み方】WBC・花見・値上げ前でズレる消費|“繁忙期が読めない”時代の市場構造

「3月が怖い…」と感じる店が急増中|繁忙期が読めない本当の理由

最近、打ち合わせの最初の5分で決まることが増えました。話の本題に入る前に、「今年の3月、どうなりますかね」という一言が出るかどうかで、その方の不安の深さが分かるからです。実際こういう相談が多いです。「例年は3月に売上が上がるのに、今年は上がる気がしない」「人は動く気がするけど、店には来ない気がする」。この“気がする”が、案外あなどれません。

僕らが現場で見ている限り、数字は大崩れしていないのに手応えが薄い店が増えています。来店数はある。でも買い方が軽い。単価が伸びない。逆に単価は上がったのに回転が落ちる。こういうズレが同時に起きると、経営者の頭の中が散らかります。いや、正確に言うとここなんですよね。3月を繁忙期として“いつも通り”の前提で扱うと、ズレをズレとして認識できないまま走ってしまう。結果として「忙しかったのに、残らなかった」という終わり方になります。

僕自身、焼肉店を7年間やっていた時に、まさにそれをやりました。売上は立っているのに、仕入れも人件費も増えて、終わってみたら利益が薄い。あの時は「繁忙期だから仕方ない」と思っていたけど、今なら“設計不足を繁忙期のせいにしていた”んだと思います。最近は物価高もあって、売上の数字より粗利の揺れが精神に来ます。ちょっと単価が落ちるだけで、利益がすっと消える。だから余計に「3月、怖い」という言葉になるんだと思います。

ただ一方で、3月が得意な店もあります。彼らは特別な魔法を持っているわけではなくて、ズレを前提に準備している。ズレるなら、どこがズレるのかを先に言葉にして、売り方と空間を合わせていく。その姿勢が違うだけです。

ここまでを踏まえると、前半でやるべき整理は明確で、今年の3月は何がズレを作るのか、そのズレが“時間”と“空間”にどう出るのか。まずそこをほどいていきます。

2026年の消費動向を“現場目線”で読む方法|MBA理論を売上に変える考え方

MBA的な市場分析という言い方をすると、急に難しく聞こえるかもしれません。でも現場で必要なのは、きれいなフレームより「手元の店に落ちる翻訳」だと思っています。僕がよく使うのは、需要を“量”で見る前に“形”で見る方法です。需要が増える減るだけじゃなく、いつ発生して、どんな順番で財布が開くのか。ここを読むだけで、3月はだいぶ外しにくくなります。

実際こういう相談が多いです。「3月って人が動くから、何かやれば当たりますよね」。この発想が悪いわけではないんですが、今年は当たりやすい球が少ない。むしろ空振りしやすい球が増えている。だから、手数を増やすほど疲れる可能性があります。

需要の“形”をつくっている要素は、今年は大きく4つあります。WBC、自宅観戦、近場のお花見、4月値上げ前、新生活前倒し。これらは別々の話に見えて、実は「時間の取り合い」と「失敗したくない心理」という一本の糸でつながっています。

ここで一度、整理のために要点だけ箇条書きにします。細部は次の見出しで掘りますが、まず全体像を掴んでおくと読みやすいと思います。

  • WBCは外食を奪うというより、外にいる時間を削る
  • 花見は遠出より近場になり、少人数で“ちょい贅沢”が伸びる
  • 値上げ前は3月に買いだめが起きやすく、4月に反動が来やすい
  • 新生活は3月後半では遅く、2月から3月上旬で意思決定が進む

ここでハマるケースが多いです。4つのテーマをそれぞれ別施策で処理すると、店の中がバラバラになる。ポスターは派手なのに導線が追いつかない。商品はあるのに受け渡しが詰まる。空間の整合性が崩れて、結果として“買う理由”が薄くなる。

焼肉店をやっていた頃の僕は、まさにバラバラに処理していました。イベントが来たらイベント用のPOP、花見なら花見のメニュー、値上げなら値上げの告知。やっていることは正しいのに、なぜか売上が素直に伸びない。あれは、店の中の意思が揃っていなかったんだと思います。

今は店舗デザイン側の仕事で、売り方の意思を空間に落とすところまで一緒に考えます。そうすると、市場の読みは“販促の企画”ではなく、“売場の編集”になります。何を強調し、どこで止め、どの角度で見せるか。ここが、MBAっぽさを現場の言葉にする部分だと思っています。

WBCで客足が消える理由|「外食離れ」ではない本当の原因とは

WBCの話になると、「試合の日は仕方ないですよね」で終わることがあります。でも、仕方ないで終えるには、影響が大きい年がある。2026年は、たぶんその年に近い気がしています。2023年のWBCでも、試合時間帯に外食産業の売上が落ちる現象がありました。いわゆる押し出し効果です。ただ、僕はここを「外食が負けた」と捉えるのは少し乱暴だと思っています。ここを勘でやると危ないです。奪われるのは“外食”ではなく“外にいる時間”です。人は24時間しか持っていない。試合を見る時間が増えると、その分、外で過ごす時間が減る。だから店に来ない。これは善悪ではなく、構造です。

さらにややこしいのは、2026年は視聴の形が分散する可能性がある点です。みんなで同じテレビの前、というより、各自の環境で観る。そのぶん「街が一斉に静まる」ではなく、「いつの間にか人がいない時間帯が増える」になりやすい。これが読みにくさの正体だと思います。現場でやってしまいがちなのは、試合時間帯の売上減を“店内の工夫”で取り戻そうとすることです。メニューを増やしたり、席の回転を上げようとしたり。でも人がいないなら、席をいじっても意味が薄い。まず接点の場所を変える必要があります。

この時に効いてくるのが、テイクアウトの位置づけです。ただテイクアウトを増やす、ではなく、観戦という生活行動の中に商品を滑り込ませる。帰宅導線の途中で止めるのか、事前予約で確保してもらうのか。ここは“需要の読み”と“空間の使い方”がセットでないと成立しません。

焼肉店の頃、僕は「店に来てもらう」発想から離れきれませんでした。店内が空くなら、SNSで来店促進を強める。クーポンを出す。ところが、試合の日にクーポンを出しても、そもそも外に出ない。あの時の空振り感は、今も覚えています。

今は支援側として、店頭のファサード付近に“入店せずに買える場所”を作る提案をよくします。これはデザインの話に見えて、実は市場の話です。外にいる時間が減るなら、外にいる時間の中で完結する買い方を用意する。その発想の切り替えが、WBCの押し出し効果に対する現実的な答えだと思います。

花見需要で単価を伸ばす方法|“近場×プチ贅沢”の財布を開かせる仕組み

花見は春の風物詩ですが、近年の花見は「宴会」より「散歩」に寄ってきています。昼間に、近場で、短時間で、というスタイルが増えている。これは京都でもはっきり感じます。実際こういう相談が多いです。「花見向けって、安い弁当を出した方がいいですか」。この問いに対して、僕はいつも一度考えてから言い直します。安い方がいい時期もあるけど、今年は“安い”より“納得できる”の方が強い気がします。

こう言うと単純なんですがここが肝で。節約ムードがある=安いものが売れる、ではない。節約ムードがある=失敗したくない、の方が近い。だから、価格を下げるより「この内容ならこの値段でいい」と思ってもらう方が効きます。

インテージの調査で、昼間に近場の桜を選ぶ人が多いという話がありますが、これを現場に翻訳するとこうなります。遠出しない分、浮いた時間とお金の一部が“近場の満足”に回る。つまり、花見は安売りの場ではなく、“小さな贅沢の舞台”になる可能性が高い。

お花見復活、予定4割でコロナ前水準。一人花見は2.2倍 – 市場調査 株式会社インテージ : https://www.intage.co.jp/news/5664/

では、その財布はどこで開くのか。ここが空間戦略の話です。花見向け商品の売上は、メニューの中身以上に、見つけやすさと選びやすさで決まることが多い。特にスマホで情報を見て、店前で数秒で判断する人が増えているので、入口周りの情報設計が重要になります。飲食なら「手ぶらで花見」が刺さることがあります。物販なら、桜に寄せた色やパッケージで、季節のスイッチを入れる。ここは単なる演出ではなく、購買心理の設計です。春の空気を視覚で先に感じさせると、財布が開きやすくなる。

焼肉店をやっていた頃、花見需要を取りに行って、逆に単価を落とした年があります。花見=安い、と思い込んで、内容を薄くしてしまった。結果、お客さんは増えたけど利益が残らない。今なら、薄くするのではなく、用途を明確にして単価を守る設計にします。

今の支援では、照明の色温度やPOPの色味まで踏み込みます。暖色に寄せる、ピンクやオレンジをポイントに入れる。こういう話は小手先に見えるかもしれませんが、近場の花見需要は“気分”で動く側面が強い。気分を作るのが空間の役割だと思っています。

3月はもう後半戦が弱い|値上げ前×新生活前倒しで変わる売上構造

3月は年度末で忙しい。これは変わりません。ただ、近年の3月は、忙しさのピークが前にズレてきています。値上げ前の駆け込みと、新生活準備の前倒しが重なると、3月は“後半に残る需要”が減りやすい。

実際こういう相談が多いです。「3月後半にキャンペーンを用意してるんですけど、遅いですか」。ここは業種にもよりますが、遅いことが増えています。特に新生活に絡む消費は、3月後半には意思決定が終わっているケースがある。ここを押さえるだけで、だいぶ変わります。新生活需要は“3月に入ってから動く”ではなく、“2月から決め始めて3月上旬で揃える”に寄ってきています。引越し難民の話もあり、引越し自体が前倒しになると、生活の立ち上げも前倒しになる。だから、3月後半の勝負が空振りしやすくなる。

値上げ前需要も同じ構造です。「この価格で買えるのは今だけ」という動機は強いですが、買ったら終わりです。3月に売れた分、4月の反動が来る可能性がある。ここを読まずに在庫を積みすぎると、翌月に身動きが取れなくなります。空間戦略の観点だと、値上げ前は“伝わる位置”が勝負になります。店の奥で静かに告知しても、人は気づかない。入口から会計までの導線上で、自然に目に入る場所に置く。これは設計の問題です。

新生活前倒しは、さらに難しい。新生活向けの訴求は、店内のどこに置くかで結果が変わります。既存客向けの売場の中に混ぜると、誰にも刺さらない。かといって別コーナーにすると、動線が崩れる。ここは店の規模と商品に合わせて“主役の場所”を決める必要があります。

僕が焼肉店を閉店したのは昨年5月ですが、閉店の判断過程で痛感したのは、「短期の売上」と「長期の体力」を混同すると危ないということでした。値上げ前の駆け込みは短期の売上になりやすい。でも、その売り方が店の体力を削るなら、どこかで歪みが出る。今なら、短期と長期を分けて設計します。

ここまで整理すると、3月を“繁忙期だから頑張る”で乗り切るのは難しい気がします。ズレが起きる前提で、需要の形を読み、空間をそれに合わせて編集する。

次回は、その編集をどう具体策に落とすか。後半は実行の話に入ります。