

「もう決めてもいいですか?」に感じた小さな違和感
この仕事をしていると、“契約の一歩手前”で胸がざわつく瞬間って、たまにあるんです。あの日もまさにそうでした。
「もう決めてもいいですよね?」
その一言が、妙に引っかかって。
場所は京都・四条通から一本入った細い路地。石畳の上をひとり歩く観光客がぽつぽつと。人通りはムラがあるけど、雰囲気は抜群。ぱっと見は「いいやん」と思う人も多いやろなと思いました。
オーナーさんも上機嫌で、
「家賃も予算内ですし、この立地ならいけそうですよね」って。
その気持ち、めっちゃ分かるんです。長年の夢を叶える扉が目の前にある感じ。
でも、私の中で何かが止まりました。
――“ん?なんか違うな”っていう、小さな違和感。
京都の繁華街はコロナ後に家賃水準が戻ってきてて、特に路地裏や二階の物件は“観光の波”に左右されやすい。一見にぎやかやけど、実際は“誰が来るのか”“いつ売れるのか”が読みにくいんです。その“読めなさ”が、私にとっての危険信号でした。
立地じゃない、“建物構造”に潜んでいたリスク
入った瞬間、天井高とか奥行き、照明の入り方とか、「いい感じやなぁ」と思うところもたくさんありました。けど、数分もしないうちに、心の奥で「これは危ないかも」という思いに切り替わっていった。
● 排気ダクトがほぼ取れない構造
旧耐震ビルによくあるパターン。飲食への転用で内装費が1.5〜2倍になるのは珍しくありません。この物件も外壁方向のダクト許可が“管理組合次第”。つまり契約後に“追加費用の地雷”がある。
● 給排水の引き直しが必要
床下スペースが狭く、厨房を設置できる位置が限られる。結果、理想の動線が確保できなかったり、床を高くする必要がある。
● 共用部分の所有権が曖昧
「後日確認」=非常に危険。
工事が進まない=家賃だけ先に発生するリスクです。
路地を抜けながら、私は正直に伝えました。
「この物件、今決めるのはおすすめできません。たぶん後悔します。」
オーナーさんは一瞬驚いて、
「え、そんなにですか?」
「ええ。事業を長く続けたいなら、“想定外の出費”が一番怖いです。」
ほんまは、背中を押してあげたい場面なんです。でも、今回はそうじゃなかった。
“止める勇気”も、プロの仕事
代表の穴澤がよく言っているのですが、
開業支援の本質って「成功させるよりも撤退を防ぐ助言」なんだ。長く付き合うためには、“止める勇気”も大切。まさにその言葉の意味を感じました。
オーナーさんは静かに頷いて、
「…そこまで言ってくれるの、ありがたいです」って。
その一言で救われました。
その後に分かった「決定的な事実」
数日後、管理会社から返ってきた回答を見て、思わず「やっぱりな」と声に出しました。
・ダクト新設不可
・共用部の配管ルートも使用不可の可能性大
・過去に飲食テナントの撤退事例あり
この3つ。私が感じた違和感は、間違いじゃなかった。
オーナーさんに共有したら、
「ほんまに止めといて良かったですね。助かりました。」
そのメッセージに胸をなでおろしました。
京都でテナント選びに失敗しないための3つの基準
京都の中心部では、「契約後に予算が崩れる」事例がほんまに多い。
だから契約前の“曖昧な部分”を見極めるのが、私たちの一番大事な仕事です。
① 立地より“再訪性”を重視する
単なる人通りより、“滞留のしやすさ”と“客層の合致”を見る。
今回の路地は観光中心で、リピートに弱かった。
② 工事制限=事業自由度の低下
排気・給排水・動線が不自由な物件は、居抜きでも最終コストが跳ね上がる。
③ “判断待ち事項”が多い物件は危険
回答の曖昧さ=開業の遅れ。家賃が先行して出費を圧迫する典型パターンです。
「NOと言える専門家」が信頼される理由
新しい物件では、
- ダクト許可が明確
- 共用部分の制約が少ない
- レイアウト自由度が高い
結果、初期コストを30〜40%削減できました。
「こっちのほうが私のお店に合ってる気がします」
オーナーさんの笑顔が、そのすべてを物語っていました。
結局、“言いにくい本音”を正直に伝えることが、いちばんのサポートなんですよね。
これも代表がよく言っている言葉なんですが
「顧客にNOを言える専門家こそ信頼される」。
私もそれを、身をもって知った日でした。
「迷ったら、いったん止まる」が未来を守る
もし今、物件選びで迷っている方がいたら。
焦らず、いったん立ち止まってください。
「いい」と言われた物件ほど、冷静な目で見る価値があります。
コトスタイルでは、内見同行や初回相談を無料で行っています。
「良いと言われたけど、本当に大丈夫?」
そんな段階で全然大丈夫です。
あなたが“続けられる未来”を選べるように。
私たちは、その最初の一歩から並んで考えます。





